芝居後は台本を捨てる
――役所さん、黒木さんは本作が初共演だ。お互いの印象を聞いてみると──?
黒木:私にとって役所さんは本当に憧れの方でした。どんな役を演じられてもどこか色気があって素敵で。役を生きてらっしゃるなかでご本人の人間性が出ているのかなと想像したり。どういうお芝居をされるんだろう?と思っていたので、間近で拝見できてすごく嬉しかったです。
役所:いやいや、僕も黒木さんが素晴らしい女優さんであるのは存じていましたが、黒木さん、お着物が本当に似合いますよねぇ~。
黒木:ふふ。ありがとうございます。
役所:耐え忍んで最後までやり遂げるようなイメージの女性像が似合うし、お路役に本当にぴったりだなと。実際にはけっこう「飛んだ人」なのかもしれないけど(笑)。芝居が終わったら台本を全部捨てるそうですね。潔いよね! 僕は捨てきれないんですよ。
黒木:たまっちゃって大変じゃないですか? 読み返すことはありますか?
役所:ない(キッパリ)。何のためにとってあるかわかんない。でもなんか捨てられない。
黒木:わかります(笑)。そういう俳優さんも多いですよね。
――完結から200年近くを経たいまも色あせない「八犬伝」は物語のもつ力、強さをあらためて感じさせる。お二人も物語に動かされた経験はあるのだろうか?
人の気持ち動かす俳優
黒木:あります。私は演劇部員だった高校生のときに松たか子さんが主演された野田秀樹さんの舞台「贋作・罪と罰」を観て衝撃を受けたんです。こんなにも人の気持ちを動かす俳優ってすごいなと。それがこの道に進んだきっかけです。物語は自分の人生の彩りでもあるし、本や映画や舞台などの物語から人としての経験を積んでいる気がします。いま俳優として物語のなかの何者かになれることが、私はすごく楽しいんです。
役所:僕は物語というよりも自分が演じた役や関わった作品から何かを学んだり、自分が生きていく何かの力になったりしている気がします。例えば小栗康平監督の「眠る男」(1996年)で、台本で半ページほどのシーンを「3倍の長さにしてくれ」って言われたんです。「間はいくらでも取っていい」って。
黒木:それは難しそう!