それは、思っていたよりずっと難しい課題だとわかった。基本中の基本のメロディーを学ぶだけでも、何時間もひたすら集中しなくてはならない。100パーセント今この瞬間にいて、没頭する必要があったのだ。
「すぐに1日2~3時間は練習するようになった。正しい音を正しいタイミングで連打できたときは、本当に満足できたのよ」と彼女は言った。
「メロディーを正しく弾けたときは、とてもいい気分だった」と。
何が起こっているか本人も気づかないうちに、このシンプルでクリエイティブな表現活動が、友人を鬱状態から救い出した。だんだん気分が晴れてきて、むなしかったはずの1日の終わりに、達成感すら抱くようになった。
私たちの魂は表現されたがっている。だから、クリエイティブになると気分がよくなって、心が満たされるのだ。
没頭は人生最強の体験
研究によると、ある活動に100パーセント没頭すると、それをさらに楽しめるという。全神経を集中させなくてはならない活動に夢中になっているときは、まさに今この瞬間に身を置いているからだ。
アスリートは勝負のただ中で、きのうの会話について考えたり、今後の会議で何が起こるかに気をもんだりしていられない。ピアニストは演奏の真っ最中に、「今晩の夕食に何をつくろうか?」なんて考えていられない。アスリートやピアニストが何らかの理由で、過去や未来に心を奪われてしまったら、その体験も努力の結果もつまらないものになるだろう。何をするにしろ、今この瞬間に身を置いて没頭しなければ、うまくできないし、回避できるミスを連発する羽目になる。
今していることに100パーセント没頭する状態を、人々はよく「ゾーンに入る」と表現する。
実際、ゾーンに入ると、取り組みに夢中になるあまり、外の世界が完全に消える。私は「ゾーンに入る」という言葉を聞くと、「ゾーン」の前に「心地よい」という言葉を入れる。没頭することは、コンフォート・ゾーンでできる究極の体験だからだ。