彼女が読書家だとは聞いていたけど、いまやすっかり書く人なんだね。押切もえ『永遠とは違う一日』は人気モデルとしても活躍する作者らしい、いわゆる「業界」とその周辺の女性たちを描いた6編からなる連作短編集である。
登場するのは恋愛もイマイチ、仕事もイマイチな女たちだ。
パッとしないモデル事務所のマネージャーと彼女が担当するこれまたパッとしないモデル(「ふきげんな女たちと桜色のバッグ」)。独立はしたものの、いまも師匠や元カレの影をひきずるスタイリスト(「しなくなった指輪と七日間」)。離婚した元夫は前衛画家、娘はアイドルとして活躍しているのに、自身は長いスランプから抜けられない絵画教室の講師(「抱擁とハンカチーフ」)。
80~90年代にはこういう感じの小説がよくあったっけ。仕事小説といえば非正規雇用のワーキングプアやブラック企業であえぐ若者たちの物語ばかり、みたいになってしまった昨今、キラキラした世界に憧れる女たちにはもうリアリティがない……かと思いきや意外にそうでもない。
成功のイメージがはっきりしない時代。外国語専門学校を出たが英語を活かせる職に就けなかった25歳の女性は、アナウンサーになった友人に〈将来って、そんなにはっきり決めなくちゃダメかな?〉と言い放つ。やりたいことが何かわからなくても〈決して永遠を望まず、ただ毎日の奇跡を味わって生きればいいのだ〉(「甘くないショコラと有給休暇」)。
だよね。世の中、夢を持て持て、いいすぎなのよ。だから余計生きにくくなるわけで(とはいうものの、この子にも大どんでん返しが待ってるんだけど)。
前の4編で張られた伏線が、後の2編できれいに回収される構成がお見事。特に作品全体の要というべき人気バンド「7BOYS」の男の子を描いた「バラードと月色のネイル」は、セクシュアリティがからんだ切ない佳編だ。
今年の山本周五郎賞にもノミネートされた本。選考会は5月16日だそう。さて結果はいかに。
※週刊朝日 2016年5月20日号