完全オリジナルのカートリッジを発売へ

バンドを組むほどの音楽好き。だが、入社までレコードで音楽を聴いたことはなかった。しかし今は、「アナログの面白さがよく分かる」という。レコードプレーヤーのアーム部分には、「カートリッジ」と呼ばれるレコードから読み取った情報を電気信号に変換するマグネットやコイルを含む装置が取り付けられている。先端部にあるレコード針はカートリッジの一部だ。奥さんは言う。

「針やカートリッジの細かい部品を変えることで自分好みの音にカスタマイズできる。そんな贅沢な音楽の楽しみ方はここで初めて知りました」

仲川社長は同社をレコード針だけでなく、カートリッジメーカーとして次世代に引き継ぎたい、と考えている。完全オリジナルのカートリッジを今年10月に発売予定だ。

仲川社長が期待するもう一人の若手が、入社8年目の谷口一馬さん(26)。音を聴き分ける才能を見込まれ、レコード針やカートリッジの設計・試作を担当している。地元の高校を卒業後、入社。高校の求人票で「レコード」という単語に目が留まったという。

「聞いたことはあるけど、実物を見たことも、音を聞いたこともありませんでした」(谷口さん)

レコードは「ブツプツと雑音が混じり、音がこもるイメージ」だった。しかし、入社後に聴いたレコードの音は独特の温かみがあり、心地よく感じられた。「音楽を聴く姿勢になれる」ことも魅力だ。レコードをセットしてターンテーブルを回し、レコード盤に針を置く瞬間までの「これから音楽を聴くぞ」という一連の所作が面白い。そんなZ世代らしい感性が、ものづくりのモチベーションにつながっている。

仲川社長は全国の若者にこう呼びかける。

「一生をかけて技術を磨くのにふさわしい職場です。都会暮らしの人もぜひ、自然豊かな環境で一緒にものづくりしてみませんか」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2024年10月7日号より抜粋

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