山:非常に面白い。旧時代では、絵で食うからにはまずうまいことが必須だった。それがイタサの面白さや自由さのほうに大衆の好みが変わっていった。これが大きな流れですね。
リ:でも、これまでサブカルだから不勉強でも許されたのに、メインになることで、底の浅さが見られるような気がして、居心地が悪いんです。僕もみうらさんも、西原(理恵子)にしても、美大に行っても全然絵がうまくならなかった(笑)。教養も身につけないまま仕事を始めたら、全部同じアングル。絵からばかばかしさは出ても、粋で教養がある絵からはどんどん離れていくんですよね。
山:食えるまでに時間はかかりましたか?
リ:大学を卒業してから27歳まで、海苔の倉庫で仕分けのアルバイトをしたりしていました。海苔は軽くて楽そうだな、と(笑)。その後は、放送作家の仕事を編集者に紹介されてやっていました。
山:武蔵野美術学校(現・武蔵野美術大学)の出身者って、そういった気質がありませんか。例えば広告のような王道を行く人は少ない。内館牧子も西原も城戸真亜子も林家たい平も、ズレてゆく。ムサビの血筋です(笑)。
リ:そうですね。美大出て、グラフィックやって、独立して、五輪のエンブレムでコケるっていうのが正統派なんだろうけど(笑)。まっすぐ系じゃないのが多い。
山:あえてレールじゃないところに行きたがる。大学も「基本的な力はつけてやるから、後は好きにしろ」という。「放牧」ですね。学生募集のスローガンに使えばいいのにね、「放牧のムサビ」。
リ:まあ、そのスローガンだと、親は行かせないでしょうね(笑)。
※週刊朝日 2015年12月25日号より抜粋