大学総出で事業創出に取り組む

 日本でも産業発展を促すため、国をあげて大学でスタートアップを推進する動きがある。たとえば、文部科学省は14年から「グローバルアントレプレナー育成促進事業」をスタートさせた。アントレプレナーとは、ゼロから会社を起こして新しい事業を作り出す人のことである。ひらたく言えば、大学などで研究開発成果を基にした起業家を養成する環境をつくりなさい。そのために支援します、という政策である。ゼロからの立ち上げは相当なリスクを伴う。危険を意味する「ベンチャー」からベンチャー企業と呼ばれている。

 現在、国内の大学でのベンチャー企業育成による新しい事業創出は、次の六つに分けられる(経済産業省の定義)。

①研究成果ベンチャー
大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術、ビジネスで生まれる事業

②共同研究ベンチャー
創業者の持つ技術やノウハウを活用し、設立5年以内に大学と共同研究などを行って生まれる事業

③技術移転ベンチャー
既存事業を維持、発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転などを受けて創出される事業

④学生ベンチャー
学生、大学院生が関係する事業

⑤教職員等ベンチャー
在職する教員、事務職員(研究職員・ポスドクなども含む)が関係する事業

⑥関連ベンチャー
大学からの出資によって成り立つなど大学と深い関連のある事業 なるほど、学生、教員、事務職員など大学総出で新しい事業が生み出される。

 ベンチャー企業育成ではどの大学に勢いがあるか。具体的に見てみよう。経済産業省は毎年、大学発ベンチャーのランキングを発表している。23年度は上位10校すべて企業数が増えている。前年比で東京大50社、慶應義塾大55社、大阪大61社、東京理科大40社、立命館大25社の増加となった。

業界で存在感を示す大学発ベンチャー

 慶應義塾大、大阪大が支援する創薬ベンチャー「クリングルファーマ」では、HGF(肝細胞増殖因子)たんぱく質による新たな再生医療に取り組んでいる。HGFは組織、臓器の障害を伴う難病の治療薬となる可能性が秘められており、脊髄損傷急性期、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、急性腎障害などを対象にした臨床試験が行われている。医学界から注目度は高い。

 東京理科大にはインベストメント・マネジメント株式会社があり、産学連携機構による専門的なサポート、起業相談、インキュベーション施設を提供している、また同大学にはイノベーション・キャピタル株式会社があり、ベンチャー企業に出資している。

 立命館大は21年に起業・事業化推進室を立ち上げ、研究成果の事業化、小学校から大学院までの一貫教育型アントレプレナーシッププログラムを進めている。また、「立命館ソーシャルインパクトファンド」を立ち上げ、社会課題解決型のスタートアップに投資しており、地域社会課題などを解決する事業を支援している。23年度のファンドの運用額は20億円だった。

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東北大、ポストコロナを見据えたスタートアップ支援