NHK連続テレビ小説「虎に翼」が話題だ。現役の弁護士も絶賛し、SNSでは議論や解説が飛び交っている。シナリオ集の刊行を前に、脚本の吉田恵里香さんに聞いた。AERA 2024年9月30日号より。
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4月からスタートし、いよいよ佳境を迎えている連続テレビ小説「虎に翼」。日本初の女性裁判官となり、男女差別をはじめとする社会の問題に意識的だった三淵嘉子をモデルにした作品だ。
現役の弁護士たちも絶賛し、SNSや動画での解説も盛り上がった本作は「オンエアの翌週に、1週間分のシナリオを電子書籍でリリースする」という新しい方法も話題になった。
朝ドラが夢だった
電子版のダウンロード数は想定以上で、「第1週の売り上げで、26週分のコストが回収できた」とNHK出版の砂原謙亮さんは言う。こうした人気もあり、紙でのシナリオ集の刊行も決まった(現在は予約受け付け終了、電子版は販売中)。
「朝ドラを書くこと、シナリオ集の刊行が夢だった」という、脚本家の吉田恵里香さんに、あらためて「虎に翼」にこめた思いを聞いた。
「いつか朝ドラを書きたいと思っていました。もともと朝ドラは好きだったんですが、大学時代、シナリオの仕事を始めてから意識的に観るようになりました。これだけ老若男女が観てくれて、分母が大きいドラマは他にありません。毎日、観てもらえるのもいいですよね。私は人間の多面性を描きたいので、半年という長時間で人間を描ける朝ドラは、ぴったりでした」
「虎に翼」では、登場人物は複雑な存在として描かれる。記号的な善人や悪人が出てこないのも本作の魅力だ。
「2024年の朝ドラとして、やらなければならないことがある、と思っていました。もしもこれから日本社会が良くなって、また朝ドラを書く機会があったら、まったく違うものを書くかもしれないですが。
『虎に翼』では真正面から法律を扱うので、とくに『書くべきことを書く』気持ちは強かったです。法律を扱うのは人権や社会の構造について考えることになりますから。女性が受ける差別と闘ってきた寅子は、中盤、広義の差別や戦争の問題に向き合います。けれど終盤に向けて、もう一度女性の置かれた状況、問題に戻りたいと思いました」