「『虎に翼』は性的マイノリティーをエンパワー(力づける)する作品であると同時に、自分の特権に無自覚なマジョリティーにも気づきを与えてくれる作品です」
(フェミニズム/クィア)理論で強化することで、作品の完成度は高まり、無自覚なマジョリティーを目覚めさせる、ということである。こういったジェンダー・セクシュアリティー考証の人が、これまでの朝ドラにいたのかどうかはわからないが、「虎に翼」は「政治的正しさ」を入れることで人々の意識の覚醒を促しますと公言するかつてないドラマといえるだろう。
最近、ゲーム業界を大きく揺るがす事件が起きた。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、8年の年月と100億円以上(推定)を投資したオンライン専用シューティングゲーム「コンコード」を、リリース後わずか2週間でサービスを終了させたのだ。ゲーマーの間では「歴史的な爆死」と話題になっているが、確かに目を疑うレベルであった。Steamという世界最大のプラットフォームでの同時接続が、最高時でたったの697人だったのだ(ちなみにSteamの同時接続ユーザー数は最高3700万……)。
なぜこんな悲惨な状況になったのか……と、世界中のゲーマーや評論家が分析している。その理由は複数あるとされながらも、誰もが言わずにはいられないという調子で語るのが「キャラクターに魅力がない」「多様性のおしつけ」である。
欧米のゲーム業界では近年、多様性を意識した表現が重視されるようになった。意図しない差別表現で誰かを傷つけることがあってはならないという大切な視点ではある。たとえば、昔であれば「誘拐される王女」としてしか出番がなかった女性キャラが、今や前線で殺戮行為を繰り広げるようになった。少し前は胸とお尻が極端に大きく不自然に肌を露出させていた女性の戦士が、2020年代にリメイクされたバージョンではムキムキの筋肉質の中年女性になったりした。他にも車椅子の女性が戦地で活躍するし、おばあさんだって銃を持って殺しまくるし、殺されることも。もちろんLGBTQキャラクターは当たり前に存在する。
8年間の時間をかけて制作された「コンコード」のキャラクターもきっちり多様性が表現されたものであった。容姿端麗とは言いがたいフツーの顔のフツーっぽいヒーロー、力強く生き抜くトランス女性、誇り高き高齢女性など、あらゆる方向に配慮したヒーローがせいぞろいした。