作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は「虎に翼」と「ポリコレ」と「おもしろさ」について。
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朝ドラ「虎に翼」があと1週間半で終わる。
4月スタート以来、毎日欠かさず観ている。はるの「おだまりなさい」に涙し、「法は弱い人を守る盾」と語る寅子のまっすぐな目に膝を打ち、直道の戦死に花江と共に地を叩き、日常の一部のように「虎に翼」を楽しんできた(内輪ネタでごめんなさい)。ただちょっとだけ最近、“虎疲れ”を感じている。好きなドラマが終わるのは寂しいはずなのに、ホッとしている自分もいる。これがあと半年続いたら身が持たないというか。問題ある言い方かもしれないが、「正しさ」に少しだけ疲れちゃったみたいだ。
「虎に翼」は革新的なドラマだ。社会正義を真正面から描き、透明化されてきた人々(ゲイ、トランス女性、在日朝鮮人、車椅子の女性、被差別部落に生まれたと推測される男性など)の人生にスポットをあてる。そこには制作陣による、私たちは誰も取りこぼさない、誰も傷つけない、という強い意思を感じる。なによりこの姿勢こそが、今どきのフェミニズムでもある。
今どきのフェミニズムを簡単に言えば、「女だけが差別されているのではない」である。むしろ「無自覚な女は加害者になる」と女に反省を促し、人種、国籍、階級、ジェンダー、セクシュアリティー、世代など、複数のアイデンティティーの交差性の複雑さを複雑なまま慎重に正確に理解することをきっちり求める……ざっくり言えばそんな感じ(ですよね)の理論派だ。
ちなみに昔ながらのフェミニズムとは「シスターフッド」を掲げる。「女性として生まれたことで味わう共有体験」として「女性差別」を理解し女性の連帯を求める運動です。ざっくり乱暴に言えば、そんな感じ(ですよね)。
そういう意味で、「虎に翼」の前半は、昭和初期に法律を学ぶ女性の連帯を描くシスターフッドに焦点があたっていたが、敗戦後の後半は今どきのフェミニズム理論ドラマとして突き進んできた。
先日、「虎に翼」のジェンダー・セクシュアリティー考証をしている准教授が朝日新聞のインタビューに答えてこう語っていた。
「『ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス、政治的正しさ)を入れると、エンタメはつまらなくなる』と言う人がいますが、私はそうは思いません。外部から理論面をサポートすることで、よりリアルで、より色んな人に届く表現になり、作品の完成度は高まります。意図せず当事者を傷つける表現も避けられます」