グレーの状態を生きる
女性の次男は大学時代に中退して起業しようとして、最終的に失踪して自ら命を絶った。
「息子は、置かれたところで生きたくなかったのでしょうね。でも、白か黒か決めなくてもグレーの状態を生きることだってできる。若い人は、すぐに結果を出そうとしないでほしい。長く生きないと分からないことがある」
そう話す女性は、「置かれた場所で咲きなさい」という言葉については、「現状がつらい人に他人がかける言葉ではない。自分が自分に対してかける言葉としてなら良いけれど、若い人に言っても不快なだけなのではないでしょうか」と語る。
東京都に住むフリーランスの女性(52)は「花を咲かすことができず、つぼみのまま耐え忍んでいた」時期があったと振り返る。
大学を卒業して大手の人材紹介会社に入り、キャリアアドバイザーになった。毎日終電で帰るほど忙しく、「あのときは、大輪の派手な花を咲かせていたのかも」と振り返る。
しかし、30代のときに声をかけてもらった小さなエージェントに転職したところ、事前に聞いていた仕事内容と異なり、社風も合わなかった。すぐにでも転職したかったが、「短期間で仕事を辞めると経歴としてマイナスになる」と考え、踏みとどまったという。
神経性胃炎になったこともあったが、なんとか耐えて2年半後に転職。学生のキャリア支援の職に就くことができた。
これまで、大学生から60~70代まで幅広い年代のキャリア相談にのったり、模擬面接官として話を聞いたりしてきた。その上で感じるのは「納得感があることが大事」ということだ。
例えば、親が経営する飲食店を継ぐことを決めたとしても、いやいや継ぐのか、「自分の運命だ」と受け止めて納得して継ぐのかでは全く異なる。
「『あちらでも咲けるのかな』とモヤモヤしているのなら、一度転職活動をしてみても良いと思います。転職活動=転職ではないので。活動した結果、『いまのところで咲こう』という納得感が生まれるかもしれない。咲く場所を探すことで失うものはないと思います」
この女性は現在、フリーランスとして働く。年収は下がったが、心身は満たされているという。「がむしゃらに働いた時期があり、『やりきった感』がある。いまは目立たなくてもいいので、目に優しい花を長く咲かせていたい」
(フリーランス記者・山本奈朱香)
※AERA 2024年9月23日号より抜粋