全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年9月23日号には深海合唱団 プロデューサー 音楽家 石山ゑりさんが登場した。
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暗く、静かで、幻想的。それが「深海」のイメージだった。しかし、その場所には今やプラスチックの袋や、数十年前の賞味期限が記載された食品の梱包材が漂っている事実を知った。調べていくと、地球の至るところで環境問題のアラームが鳴っていた。現実を目の当たりにし、何ができるかを考えた。
「自分にできることは音楽を作ること。何かステージを作ることはできないか」
そして、3年ほど構想を温めて誕生したのが、深海合唱団だった。
メンバーを募集し、2020年2月にスタートした矢先、コロナ禍に突入。歌うことも、集まることも、自粛を強いられた。再び考えた「何ができるか」。たどり着いたのは、音楽ではない形でメッセージを発信すること。各メンバーを撮影した写真にエッセイを添えた記事を発表するなどして活路を見いだした。
現在、主なメンバーは20〜40代の女性15人ほどだ。昨年から対面でのライブも開催し始めた。意識するのは、一人ひとりを見過ぎないこと。歌や写真などの完成形にフォーカスし、全体から見て基準に満たない点を修正していく。たとえ歌唱力の差があったとしても、メンバーの特性を踏まえた「適材適所」で、全体として質を上げる。
海の環境を考えるNPO団体とコラボレーションしたライブを開催するなど、音楽の域を超え、異なる分野をつなぐ“ハブ的存在”にもなりつつある。
「自分たちがどんな音楽を発信し、何のために音楽をやっていきたいかを考えた時、自然や社会、コミュニティーに対して役に立ちたいとの思いがあります」
ライブでの集客の他に、ビーチクリーンで収集したプラスチックを外部に委託してアクセサリーに加工したものなどを販売。写真やビデオ撮影の際には、拾ったプラスチックを自分たちで切って磨き、顔や爪に貼る演出も考えた。
「長く親しんでもらうミュージシャンになること、そしてメンバーが音楽活動で収入を得ていく持続可能性を大事にしています」
今はすべての作曲を担当しているが、「今後、深海合唱団のコンセプトが広まっていったら、自分以外の人にも曲を作ってもらい、輪を広げていきたいですね」とほほ笑む。(フリーランス記者・小野ヒデコ)
※AERA 2024年9月23日号