女性の年齢や職業、容姿は「ニュース」なのか(写真はイメージ/gettyimages)
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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回はニュースの「重さ」について。

【写真】闇が深すぎる…不祥事続出の鹿児島県警・野川明輝本部長

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 総理番を務めていた経験もある日経新聞の記者Aさんが、ストーカー規制法違反容疑で逮捕された。相手は他社の記者Bさん。Aさんは独身だが、Bさんは既婚者で3人の子供の親だった。二人の過去の関係は仕事仲間には知られていた。Aさんはこれまでもストーカー行為を行っており警察からは口頭で警告を受けていた。今回は、Bさんに先月17〜25日の間に64回のメッセージを送りつけていたことで逮捕された。

 ……と、ここまで私は敢えて、被害者と容疑者の性別を記さなかったが、今、NHKをはじめ大手メディアが “彼女”が逮捕されたニュースを実名で報じている。週刊誌サイトなどは顔写真も公開している。ワイングラスを片手に微笑む写真を使ったりなどし、「美人記者」と記しているところまである。

 誰もが知る大手企業の社員が逮捕された場合は実名報道される……というのは、これまでもあったことだけれど、かなりモヤモヤする。誤解を恐れずに言えば、9日間で64回のメッセージって、身柄を拘束されるほどのことなのだろうか。これまでストーカーに殺されてきた女性たちの顔や、性暴力を訴えても警察に取り上げられなかった無数の声を思い出しては……逮捕の基準が全くわかりません!!!

 もしこれが、男性記者がストーカーだったらどうなっただろう。ストーカー被害にあったのは既婚女性の記者で子持ちの30代で、男性よりも年上だったら。日本に50年以上暮らす経験値からいえば、「自業自得」と冷たくあしらわれるのがオチだよね、と悲観的になっても仕方ないだろう。というか、もしかしたら、そもそも既婚で子持ちの女性が不倫の末にストーカー被害を受けていたとしても、「何を言われるかわからない」「失うものが大きすぎる」と考え、被害を訴えられないかもしれない。それが、この国の女性が置かれている立場ではないか。

 この国では毎日のようにストーカー行為で誰かが逮捕されている。地方紙などを見ているとそれがよくわかる。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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ストーカー事件「報道の傾向」とは