不動産ジャーナリストの榊淳司さん
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 過熱気味の都心のマンション市場だが、その中でもコスパがいいねらい目エリアはないだろうか。不動産ジャーナリストの榊淳司さんに聞いてみると、条件を限定すると、値ごろ感のあるエリアはあるという。AERA&AERA dot.の合同企画。AERAでは 2024年9月9日発売号(9月16日号)で特集します。

【注目ランキング】いくらで売れる? リセールバリューの高い駅上位285

山手線内なら文京区

 首都圏の不動産、特に中古マンションは取引数が多く、市場としてかなり成熟しています。きれいに需給が形成されているので、実力に比べてお買い得なエリアは見いだしにくい状況です。それでも、例えば「都心へのアクセスの良さ」など優先順位を付ければ、周辺地域と比べて値ごろ感のあるエリアは存在します。ここでは私自身の好みも加味して、いくつかおすすめのエリアを紹介します。

 まず、山手線の内側で選ぶなら文京区。文京区の中古マンション価格はおおざっぱに言って港区の約3分の2程度ですが、銀座や新宿へのアクセスのしやすさはほぼ変わりません。港区のような華美さはありませんが、歓楽街が少なく、子育てもしやすいエリアと言えるでしょう。ただし、安いと言っても23区平均よりかなり高いので、パワーカップル向けと言えそうです。山手線の外側まで広げて都心へのアクセスを考えるならば、蒲田や大森など大田区の京急本線沿線でしょうか。文京区よりさらに2割程度安いと見ていいと思います。このあたりのマンション取引はほぼ実需で投資マネーが少なく、おかしな上がり方をしないので、高くなっているとはいえ、手が届く人も少なくないと思います。

 23区内で都心へのアクセスしやすさを考えたとき、圧倒的にコスパが良いのが北区の東京メトロ南北線沿線エリア。南北線は都心の真ん中を通る利便性の高い線ですが、全線開通が2000年と新しく、その分駅前の開発が進んでいないために価格がかなり安くなっています。赤羽岩淵や王子神谷ならば駅前が栄えている赤羽や王子にも徒歩で出られますし、志茂のあたりなら駅前は非常に地味ですが、埼玉の浦和や川口より安くなっています。

 都心へのアクセスだけではなく、駅前のにぎやかさ、楽しさも重視したいならおすすめは東武東上線の大山駅。池袋まで3駅6分と至近で、駅前には昔ながらの商店街が残っています。マンション需要もほぼ実需でそれほど値上がりしていません。西武新宿線沿線も、都心アクセスは高田馬場乗り換えが必要で一段落ちますがコスパの高いエリアが多いと思います。

リセール考えないなら徒歩11分以上をねらう

 東京を離れれば、神奈川のJR南武線沿線がおすすめです。南武線は直接都心に乗り入れない路線で、不動産業界では少し下に見られます。その分価格も安くなるのですが、南武線はJR、私鉄、メトロの様々な線と接続していて、乗り換えの手間を許容できるならば東京のどこへ行くにも便利です。

 もうひとつ、エリアの話ではありませんが、将来的なリセールを考えないならば、徒歩11分以上の物件を探すとかなりお手頃なものが見つかるかもしれません。不動産情報サイトなどで物件を探すとき、多くの人が「徒歩10分以内」にチェックを入れます。そこから外れる11分以上、あるいはさらに駅から遠くていいならば15分以上で探してみると、1分の違いでずいぶんと安くなっているケースがあるんです。また、中古マンションは個人間の取引が多いですが、この駅徒歩の差でなかなか売れずに困っている売主も少なくありません。その場合、額の大きな値引きにも応じてもらえることがあります。

 いずれにせよ、安いエリアや物件には安い理由がありますから、予算と個人の価値観を照らし合わせて選ぶしかありません。

【プロフィール】さかき・あつし/不動産ジャーナリスト、榊マンション市場研究所主宰。主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信する。主な著書に『マンション格差』(講談社現代新書)、『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)など

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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