姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 岸田文雄首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙には、10人を超える候補者が名乗りを上げています。「表紙のかけ替え」で従来と同じことが起きるのではという声も後を絶ちません。安倍晋三氏から岸田氏までの政権の何が問題だったのかを考えるときに一番にあがるのは、裏金問題です。しかし、裏金問題は、ある意味で自民党を中心とする55年体制の病理であり、同時に生理でもあったわけで、ことさら新しい問題ではありません。なぜなら、自民党を中心とする55年体制の制度としての中心的な特徴は構造汚職(R・J・サミュエルズ著『マキァヴェッリの子どもたち』)であり、今後もそれが形を変えて続く可能性があります。カネと政治の問題にケリをつけるのは至難の業であり、そうできる近道は、政権交代が可能な政治にスイッチするしかないのです。そこに、日本の政治のジレンマがあります。

 今回の岸田首相の事実上の退任宣言と自民党総裁選の乱立、それをめぐるメディアジャック的な局面を勘案すると、またぞろ自民党は復権しそうです。とすれば、現在の自民党政権のより重要な問題点に目を向けるべきです。それは、一言でいえば、日本の国の根幹に関わる政治的な仕組みをねじ曲げるような形で、安倍政権から岸田政権まで次々と重要法案が独断で決められてきたことだと思います。

 8月15日、今年も終戦日を迎えましたが、あの戦争で多くの犠牲者を出したのは戦争末期でした。その根幹にあるものは何か。それは結局は政党政治が機能不全に陥り、議会が事実上なくなり、誰も責任を負わないという状況になっていたことです。

 議会制民主主義の場である国会に今こそ戻るべきです。この民主政治の根幹に関わる問題にスポットが当てられず、自民党政権の問題が、カネと政治の問題だけに還元されてしまうのは木を見て森を見ない議論と同じです。その意味で日本の政治の根幹が、議会制民主主義と議院内閣制の上に成り立っているという、この本来の原点を忘れない人。せめてそういうことを理解している人こそが、次期自民党総裁選挙で勝ち残ってほしいですし、それを基準に各候補を篩(ふるい)にかけるべきです。

AERA 2024年9月2日号