AERA 2024年9月2日号より

 心に残る言葉は「よい言葉」とは限らない。ふたつめの言葉は「オープニングアクトなんだからわきまえてね」。

 2009年に、あるライブハウスでくらった言葉だ。17歳で「クリープハイプ」を結成し、インディーズで活動していたとき、人気バンドのオープニングアクトとして呼ばれた。

「リハーサルのときに『まだ時間ありますか? もう1曲できますか』と聞いたら、ライブハウスのPAさん(音響担当のオペレーター)が言ったんです。『あるけど、 オープニングアクトなんだからわきまえてね』って。今思い出しても腹が立つほどで、ライブ本番でわざと『どうもオープニングアクトです』と自己紹介をしました(笑)」

どう使うかがセンス

 3年後にメジャーデビューし、そのライブハウスの向かいにある大きな会場で、あの日の主催バンドも出演するイベントのトリを務めたとき、舞台上で言った。「3年ぐらいで大体のことはひっくり返せるので、皆さんもいろんなムカつくことがあると思いますが、お互い頑張りましょう」 

 いま尾崎さんは笑って言う。

「優しい人の言葉よりも、嫌な人間の言葉の方が残るんですよね。生きていれば何かしらネガティブなことを言われます。だからそれをどう使うかがセンスだと思う。逆に利用して力にするというか」

 苦い言葉こそが人生に寄り添い、エネルギーに変わる。それが尾崎さんの創作の根源にある。

「音楽で結果が出なかったころは何かに噛みつきたくてしょうがなくて、逆にこういう言葉で自分を保っていたところがありました。でもだんだん音楽に対する批判が減っていって、自分でも何も感じなくなってしまった。そんなときに小説を書き始めたんです」

 半自伝的なデビュー作『祐介』から8年。新作『転の声』は人気ミュージシャンとなった主人公が、声が出ない苦しみを抱えながらライブチケットの転売やSNSでのエゴサーチに一喜一憂し、疲弊してゆく物語だ。主人公の苦悩がどこか尾崎さん自身に重なり生々しくも痛い。なぜ苦しみながら音楽を続けるのか。尾崎さんが自身にも問うてきた答えが『転の声』のラストに言葉となって降りてきた。

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「声」としての言葉を