さんまがへそを曲げていた!?

「さんまがへそを曲げて長年テレビ東京に出演していない」という事実だけを聞くと、さんまが一方的にわがままを言っていると感じる人もいるかもしれない。しかし、それは誤解である。

 テレビ局とタレント(芸能事務所)は、信頼関係に基づいて仕事をしている側面がある。一度でも信頼を失うようなことがあれば、タレント側が出演に消極的になるのは無理もない。

 特に、長年にわたって業界の第一線で活躍するさんまは義理堅いことで知られる。スタッフやタレントと信頼関係を構築して、それを軸にして仕事を続けてきた。

 よく知られるところでは、千原ジュニアとの逸話がある。千原ジュニアはバイク事故を起こして重傷を負い、一時は芸能界復帰が危ぶまれていた。復帰後にさんまと共演した際、退院祝いは何がいいかと尋ねられ、冗談のつもりで「レギュラー欲しいです」と答えたところ、その後、実際にさんまの番組のレギュラー出演オファーがきた。さんまは約束を守ったのだ。

 2008年には、さんまの出世作である『オレたちひょうきん族』のディレクター・プロデューサーだったフジテレビの三宅恵介氏が定年退職をすることになったため、退職の記念に「最後にもう一度『ひょうきん族』をやりたい」とさんまに申し出た。

 さんまはそれを受け入れて、この年の『FNS27時間テレビ!! みんな笑顔のひょうきん夢列島!!』で総合司会を務めた。恩人である三宅氏のために一肌脱いだのだ。

 さんまが長年テレビ東京に出ていなかったのも、今回あえて出ることにしたのも、結局のところは人間としての「情」の問題だろう。

 深読みするならば、年齢的にも遠くない未来に訪れるであろう引退の瞬間を前にして、特定のテレビ局との余分なわだかまりを解消しておきたかった、という気持ちもあるのではないか。さんまのファンにとっても、そうではない人にとっても、見逃せない番組になるのは間違いない。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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