AERA 2024年8月26日号より
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 物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2024年8月26日号より。

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 たった1カ月で162円から146円前後(8月8日時点)までドル円が急落している。金融教育家になった今でも、これだけ相場が動くと昔の血が騒ぐ。5年前までは、外資系証券でトレーダーとして、主に日本円の金利をトレード(取引)していた。

「日本ってゼロ金利だったんじゃないの? 取引する意味あるの?」と不思議に思う人もいるかもしれない。たしかに短期金利はほぼゼロに張り付いていたのだが、10年とか20年といった長期金利には金利が存在していて活発に取引されていたのだ。住宅ローンを組んだことがある人は、変動金利よりも10年固定や20年固定を選ぶと金利が高くなるという説明を受けたことがあるのではないだろうか。

 急激な円高を引き起こした日銀による「0.25%への利上げ」。これは、長年マイナス0.1%に据え置かれていた短期金利の誘導目標が0〜0.1%から0.25%に上がったことを意味する。

 金利は為替レートと密接な関係がある。いま1ドル150円で取引されていて、あなたは150万円の預金を持っている。このとき、そのまま150万円を持ち続けるのと、ドルに替えて1万ドルとして保有するのではどちらがお得だろうか?

 ここで、金利が重要なファクターになる。日本の金利を0%、アメリカの金利を5%とすると、円のまま持ち続けても150万円のまま預金は増えない。ところが、ドルの場合、1年後には利息込みで1.05万ドルになる。このとき、1ドルが143円(1.05万ドル×143=150万)よりも高ければドルを持っていた方が良いことになる。

 日本の金利が低いことを背景に、投資や投機目的で高金利のドルを購入する人は多く、さらには新NISAによる投資ブームもあって、今年上半期だけで7兆円の量の資金が外貨投資に回ったそうだ。こうした外貨の購入自体もドル円の上昇に拍車をかけた。 ドル高円安にすすむことは外貨を保有している人には喜ばしい。年初141円だったドルが162円にまで一本調子に上昇していく局面では、外貨投資で大儲けしている人たちの声が大きく、「オルカン」や「S&P500」という投資信託の言葉がSNSなどをにぎわしていた。同時に「平家にあらずんば人にあらず」かのように、外貨投資をしないことに引け目を感じて焦って投資を始めようとしている人たちの声も聞かれた。

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円安になればなるほど、物価上昇圧力は強くなる