このケトン体はかつて、「身体に悪い」と考えられていましたが、その後「別にさほど悪くもない」、さらに後年、「身体に良い」と言われれるようになりました。

編集部 悪いと言われたものが、実は良かっただなんて。医学を頭から信じるのも、なんか怖いような…。

稲島 そうですね。でも、「○○健康法」なんて、何の論拠もないものがもてはやされるのは、もっと怖いと思いませんか?たとえば、体内でケトン体に変換されるココナッツオイルを飲んで痩せる、というようなダイエット法も流行っていましたが、ココナッツオイルを飲んで痩せた、ということを証明した臨床データはほとんどないんです。

編集部 確かに。医者は何か仮説があれば、大人数の被験者を募って、しっかり検証して結論を出すという姿勢はありますものね。いずれにしても、どんな情報もただ鵜呑みにするのは良くないですね。

稲島 話を戻すと、糖質制限が昔から体重減少に役立つことは、臨床的に分かっていたんです。そしてケトン体悪者説が否定されたことで、晴れて理論的にも身体に良いという裏付けができた。そうして糖質制限は市民権を得て行ったのです。

編集部 ということは、やりすぎない限りにおいては、糖質制限は体重も減るし、身体にも良いダイエット方法だという考え方が、やっぱり正しいんですね。

稲島 フェアな視点を持つ医者たちは、そのように結論付けていると思います。だいたい、何だってやりすぎ、摂りすぎはダメなんです。水だって、飲みすぎたら人間は死んでしまうんですよ。

編集部 え?

稲島 といっても1日に20リットルとかです。腎臓の濾過機能を超えてナトリウム濃度が下がる「水中毒」と呼ばれるものです。ちょっと水を飲みすぎたかなという量では起こりませんので、心臓や腎臓に問題なければ心配いりません。脅かしてすいません。

編集部 でも、確かに水を大量に飲むと死ぬ、ということが起こりうるんですね。ウソみたいな話ですね…。

●糖質制限をやっていい人 控えた方がいい人

編集部 腎臓病の人は確か、低タンパク食にしますよね。こういう人が糖質制限すると、「糖質もダメ、タンパク質もダメ」となって、食べるものがほとんどなくなってしまいます。

稲島 もちろん、健康な人や、糖尿病気味の人には適度な糖質制限はオススメだけど、簡単にしない方がいい人もたくさんいますよ。おっしゃるような腎臓病の人や、アレルギーのある人など、何らかの病気を抱えている人は、きちんと医者に相談をしてから始めるべきです。

編集部 もう1つ、素朴な疑問が…。最初の3つのダイエットの比較チャートを見てみると、唯一、地中海食だけはあまりリバウンドしてないですよね。あれはなんでなんでしょう?

稲島 地中海食はルール自体ややこしく見えますが、やりすぎになりにくいダイエット法です。野菜や果物、オリーブオイルやナッツ、魚介類を多めに食べて、少量のワインもOKですからね。日本ではメジャーじゃない食材もあるから、その点はデメリットと言えますが、一方で日本人にもなじみやすい食事方法とは言えるでしょう。だって野菜と果物、魚中心、ですからね。

編集部 じゃあ、糖質制限もゆるやかならOKだけど、先生の一番のオススメは地中海食なんですか?

稲島 ほかの食事療法と比べて極論になりにくいのと、個人的に好きな食材が多いというのが正直なところです。臨床試験などで証明されていない方法をオススメするのはルール違反かもしれないですが、地中海食や和食をベースに糖質を控えめにするというのが、僕は妥当ではないかと思います。

編集部 どのダイエット法が良いかダメか、ではなくて、やりすぎがダメ。今日はこのことを肝に銘じて帰ります。

(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)