●やりすぎると死亡率は上がるがほどほどはオススメ
稲島 表が、糖質制限のメリットとデメリットをまとめたものです。といっても、僕が勝手に結論づけたわけじゃないですよ。2000年代にさまざまな医学雑誌に投稿された論文をベースに作ってみました。
編集部 なるほど。確かに、肉や油、酒を摂ってもいいってのは、空腹に耐えなくてすむから、勇気づけられる人が多いですよね。糖尿病にも良い、と。でもやっぱり、死亡率が上がるってのが気になる…。
稲島 よく読んでください(苦笑)。死亡率が上がるのは「やりすぎた」場合です。なぜだかは分からないのですが、人体に対する介入というのは統計的に「Jカーブ」を描くんです。どういうことかと言うと、ビタミンでも何でも栄養素を摂取すると、最初は健康リスクが下がるんですが、摂りすぎると逆にリスクが上がってしまう。「もっと摂りましょう」と盛んに言われているカルシウムでさえ、大量に摂取すると、死亡リスクが上がるという調査結果もあります。
編集部 本当だ。じゃあ、糖質制限も適度なら健康にも良くて体重も減ると?
稲島 そういうことです。特に糖尿病の人や、予備軍、いわゆるメタボの人には、糖尿病のタイプや他に併存する病気によりますが、適度な糖質制限は、一般的にはオススメです。
ご飯やパン、麺類などの糖質は、分解されて血糖値を上げますが、細胞に取り込まれて使われます。糖尿病は血糖が細胞に取り込まれる機能が下がる病気です。すると、エネルギー源である糖を細胞が活用できないから、食べても食べても元気がでない。糖尿病が進むと逆に痩せる所以です。しかも血中にある、消費されずに余った糖が、血管を傷つけてしまいます。
編集部 中年以降で糖尿病の人って本当に多いですよね。
稲島 日本人のようなモンゴリアンは、「耐糖能」といって、身体がブドウ糖を処理する能力が、アングロサクソンなどに比べると低いと言われています。だから、西洋人ほど日本人は太れませんよね。まあ、元々の食べる量がだいぶ違うからというのもありますが、日本人の多くはあそこまで太る前に、糖質を処理できなくなって糖尿病を発症し、逆に痩せて行くからなんです。
別の言い方をすると、アングロサクソンは飽食に強くて、逆にモンゴリアンは飢餓に強いということになる。
編集部 へえ~。確かにアメリカ映画を見ていると、バケツみたいなカップを抱えてアイスクリームを食べているシーンなんかを見ますが、日本人であんなことする人いないですよね。要は、できない体質なんですね。
稲島 そうです。しかも、糖尿病はある程度、病気が進行すると、細胞が糖を取り込む能力も、インスリンを出す能力も、完全には元に戻らなくなるんです。だから、そうなる前、できれば糖尿病予備軍の段階で、軽い糖質制限をすることは、オススメなんです。
●医学の「常識」も移り変わる ケトン体を巡る議論の進展
稲島 もう1つ、糖質制限を巡る議論で良く出ていたのが「ケトン体」です。3大栄養素と呼ばれるのは「タンパク質」「脂質」「糖質」。これらがエネルギーに変わります。一番、簡単にエネルギーにできるのが糖質。その糖質を制限すると、条件によりますが次に消費されるのは脂質なんです。脂質が燃やされて、エネルギーに変わるんですね。だから、糖質制限はダイエットに向いていると言われます。そして、脂質が分解された際に出るのが「ケトン体」と呼ばれる物質です。