「リングから工事のクレーンやダンプが丸見えなら台なしだ」

 と万博協会が言えば、

「大阪市議会でも、もともとはIRが先に開業して直後に万博がきて、大きく集客できるはず、と話し合われてきた。事業者からすれば、万博だから工事ストップを、と言われても、遅れに遅れており、怒るのは無理もない。ただ、万博の開催が迫っており、どこかで折り合うしかない」

 と大阪維新の会所属の大阪市議が言う。

 そこで、浮上するのがIR事業者の「解除権」だ。

 23年4月に国が事業を認定した後、9月に大阪府市と大阪IRは「実施協定」(いわゆる本契約)を結び、このなかに「解除権」が盛り込まれた。26年9月末までに資金調達や土地整備などが整わなければ、大阪IRは違約金なしで事業から撤退できるのだ。

商売として成立しないなら

 MGMリゾーツ・インターナショナルの幹部はAERA dot.の取材に対し、

「当初、大阪府市が言っていた通り、万博より先にIR開業であればなんら問題はなく、我々も稼げたはず。だが、日本側の都合でずれ込むばかり。新型コロナなどの影響で、IRをとりまく情勢はめまぐるしく変化している。万博で工事中断となればさらに遅れることは確実だ。そうなれば、事業計画通りにIRを運営していけるのか、となる。大阪府市に補償を求めることもあるだろう。商売として成立しないなら当然、解除権の行使も議論されることになる。傷が浅いうちのほうがいいですから」

 と答えた。

 吉村知事も危機感をあらわにし、8月5日の記者会見では「解除権」に触れ、

「1兆円を超える投資で、ここではビジネスはできないとなれば、当然、解除権の行使も可能性としてあり得る」

 と述べる一方で、

「強制はできないが、最大限(工事の中止)の措置を考えてほしいと事業者には伝えている。(万博協会とIR事業者、大阪府市が)ケンカしたり、ハレーションが起きたりしているのではない。国が認可しており、事業者にとっては違う話となりかねないが、なんとか着地点を見出したい」

 と語った。

 開幕まで約8カ月と迫った万博。この難問を乗り切れるのだろうか。

(AERA dot.編集部・今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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