あと1本遅い電車に乗っていたら… 

 猪狩さんは、2018年4月に強風で倒れてきた看板の下敷きになり脊髄を損傷。「両下肢完全まひ」となり、以降は車いす生活となった。現場となった道路は常設の劇場に向かう最短ルートで、通い慣れた道だったという。

「事故当時と比べるとあの日のことを考えることは減りましたけど、それでもたまに思い出します。あと1本遅い電車に乗っていたら……、あの道を1分遅く歩いていたら……と。あの時間が少しでもずれていたら、という考えはふとした瞬間に出てしまいますね。ただ、もっと怖いのは、もし1人だったらどうなっていたかということ。私の場合は、お昼の時間帯だったし、人通りの多い道だったからすぐに助けてもらえましたが、もし事故が夜に人目につかないところで起きていたら、亡くなっていたかもしれない。それを想像しただけで鳥肌が立ちます」

 事故の後は懸命にリハビリに励んだ猪狩さん。芸能界復帰は厳しいと思われていたが、周囲からの支えもあり、事故から4か月半後、車いすのアイドルとして「仮面女子」に復帰した。

「車いすアイドル」に違和感

 だが、猪狩さんは、事故から2年後のインタビューで「車いすアイドル」と呼ばれることに違和感があったと語っていた。

 「車いすアイドルって『車いすが売りのアイドル』っていう風に聞こえるじゃないですか。私はそれが嫌だったんです。別に“売り”にしたくて車いすに乗っているわけではないのにって。だから最初のほうは(メディアに)『直してください』と言っていました(笑)。今でも違和感は消えてはいないんですが、別にいいかなと思うようにしました。車いすに乗っているアイドルが珍しいから、みんなそう呼んでいるんだろうなと考えるようにしています」

 そうした世の中の“偏った視点”は、猪狩さんをどんどん苦しめていく。車いすでアイドルとしての活動を再開させるとともに、SNSなどで心ない言葉を浴びせられることが多くなっていった。

アイドルに復帰しただけなのに…

 「事故直後は『頑張れ』って応援してくれる声が大半だったんですが、アイドルに復帰してだんだんと表に出る機会が増えるにつれて、誹謗中傷というか、きつい言葉をSNSで見ることが多くなりました。もちろん、アイドルという表に出る職業なのである程度の批判は覚悟していたんですが、『アイドルに復帰するだけでこんなに言われるのか……』と思いましたね。特に『わざと事故にあったんだろ』とか『有名になれたんだから事故にあってよかったじゃん』みたいなことを書かれると、今でも思い出して怒りがこみ上げてきます。今は誹謗中傷を見つけたら、見つけた瞬間にマネジャーかスタッフさんに見せるようにしています。こんなの来ましたって(笑)。一人でみてもいいことないですからね」

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ひどい言葉は「深く関わる機会がなかったから」