時代の価値観や客の生活感に合わせるには、何に挑戦してもよく、タブーはない。実現すべきことは、客の最大満足の実現だ。研修所で、それをかみ砕いて、説き続けた(写真/狩野喜彦)

「全員に、直に」説き2割が理解すれば物事は動き出す

 企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。

 6月半ば、大阪府高槻市のJFRの研修所を、連載の企画で一緒に訪ねた。山本良一さんがビジネスパーソンとしての『源流』になったとする明大バスケットボール部からの流れが、一気に水量を増した場だ。

 営業改革の達成へ、大事なことは「全員に、直に」で説く。相手の2割がきちんと理解すれば、物事は動き出す。バスケ部で得た信念で4年間、同じことを何度、繰り返しただろうか。

 JR高槻駅から歩いて15分、楓の葉が繁る坂道を上がると、野鳥の鳴く声が聞こえる。丘の上に着くと、右手にあった研修所は大浴場があった建物だけを残し、スポーツ施設を使う市民らの駐車場になっていた。

専門知識での接客と客自身で選ぶ売り場改革の成果は賞与に

 代わりに坂道の途中にあった独身寮を研修所へ改築し、ガラス張りの食堂と5階建ての宿泊棟が立つ。「キャリアサポートセンター高槻」の名が付き、掲示板の6月の予定には部長研修、キャリア開発研修、マネジメント塾などが書かれていた。

 旧研修所では、98年に始めた営業改革を浸透させるため、全国の部店長や課長、売り場のリーダーらを次々に集めて、なぜ改革が必要なのか、何をしなくてはいけないのか、説明し続けた。内容は、そう難しくない。要は、どれだけの人が頭と胸に刻み込んでくれるかだ。

 当時の売り場は要員数を、専門的な仕事も単純業務も区別しないで決めていて、無駄が大きい、と思っていた。もう一つ、すべての客が店員との対面売買を求めていない、とも気づいていた。専門知識で接客しなければいけない売り場と、接客抜きでも客自身が欲しい品を選んでいく売り場を、分ければいい。

 各種の要素から売り場と仕入れ部門を18に分類し、それぞれに必要な人数とアルバイトに託す作業などをはじき、翌99年から全店で実施した。成果は、半年で出た。社長はコストを減らして収益を増やした成果を、売り場の面々の賞与を増やして応えた。「なるほど」と、学ぶ。

 高槻での研修は4年間、続けた。1人が何回も参加した例も多く、約1200人の顔と名前を、自然に覚える。明大バスケットボール部で流れ始めた「全員に、直に」の『源流』が、改革成功への道を拓いていく。

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