
「当時の作品を見返すと、映像はバタバタしているし、会話のシーンも片方は晴れてるけどもう片方はめっちゃ雨降ってるみたいな感じで時空が歪んでる。そういうのばっかりだけど、楽しかった」
映画祭では、芸術系の大学に所属する学生の出品作が受賞の多くを占める。日々鍛錬を重ねてきた人たちに、絵力や技術、センスではかなわないと思うこともあった。
「でも物語を読んできた数だけは自信があった。だから自分が納得できて、人が共感できるものを作ろうって思いはずっと大事にしてきました」
幼少期から図書館に通い、絵本や漫画を読みふけった。人気漫画になると間の巻が抜けていることもある。そんなときは「空想少女」の才能を生かして勝手に続きを想像しては、「答え合わせ」をして楽しんだ。
大学卒業後は、映画監督一本で生きていくことも考えた。だが、自分の作りたい物語を考えたときに、会社員になろうと決めたという。
「世の中の人たちって基本的には働いていて、日々の生活でままならないことばかり起きている。身近に感じる物語を作りたいのに、フリーになったら会社員の気持ちが一生わからないと思ったんです。あとは、シンプルに今の私の力じゃ生活できないなって」
言葉の一つひとつは軽やかだが、熱がこもる。監督として、編集者として。実現したいことを尋ねると、やっぱり軽やかにこうつぶやいた。
「最終的な目標は、世界の自殺率を減らすこと。ダイレクトにつながらなくても、私の映画を見た人が少しでも生きたいと思えるように、いつもそれを志して作っています」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2024年8月5日号