聖火点灯後、セリーヌ・ディオンさんが歌う「愛の讃歌(さんか)」に合わせてレーザー光線に包まれるエッフェル塔=2024年7月26日、パリ
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 パリ五輪が始まった。「夏の五輪初のスタジアム以外での開会式」――パリ五輪・パラリンピック大会組織委員会のエスタンゲ会長は開会式で、そう強調した。斬新な演出をテレビで見て目を見張った視聴者も多いだろう。だが、現地では途中で帰るパリ市民が続出したという。

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パリ市民が見られなかった

 開会式では、約22万枚の無料チケットが配布された。組織委員会は「観客が無料で開会式を見ることができる試みは画期的」とした。

 現場はどうだったのか。

「家でテレビを見ていたほうがよかった。あまりにも人が多すぎて、最前列の近くにいなければ、何も見えない」

 川沿いの会場を後にした中年女性は米CNNテレビのインタビューに残念そうに語った。さらに、子ども連れの夫婦は疲れきった表情で言う。

「子どもたちがかわいそう。3時半に会場のゲートが開き、私たちは4時に到着したのにまったく何も見えず……。子どもたちには開会式のことは忘れてほしい」

 また、組織委員会は「観客は河岸の上流側へはチケットなしでアクセスできる」としていた。五輪のために働いたという21歳の学生アリスさんは上流を目指した。しかし、警察官から「立ち去るように」言われたと、英The Guardian紙に語った。

「開会式の前評判がすばらしかっただけに、パリの人たちがそれを見られなかったのは本当にがっかりです」

 一方、同紙は開会式の数時間前に多くの人が川に近づくのをあきらめたのは、「賢明な決断だった」と評した。開会式の間、合計雨量が最大30ミリにもなる「悲惨な雨」が降ることが予測されていたからだ。

雨の中、開会式を見る人たち=2024年7月26日、パリ

「この雨には耐えられません」

 開会式は7時半から始まった。レディー・ガガのオープニングパフォーマンスはかろうじて雨を免れた。しかし、1時間ほどすると雨が降り始め、次第に雨足は強くなった。それでも多くの選手たちはずぶ濡れになりながら船から手を振り続けた。

 川面に雨が叩きつけて波立ち、小さな船は選手たちの船酔いが心配されるほど揺れているのが、中継画面からもうかがえた。オルセー美術館の屋根の上を走るパフォーマーの姿に、足を滑らせて転落しないか、記者はハラハラした。

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生首を手に歌う女性