AERA 2024年7月29日号

 一刻も早くレッスンに行くために、ホームルームの時間に頭をお団子に結うんです。「いつか柚希礼音さん(当時の星組トップスター)に会うんだ!」と、勝手に自分を奮い立たせていました。

――目標にまっしぐらに進む一方で、「本当は根暗だったりもします」と言う。

礼:芸名があり、立場があるから、一直線の自分を演じていけますが、もともと一人でいるのが苦にならないタイプ。芸名を脱いでいる時は、家で一人、ずっとぼーっとしたりしています。そうしてエネルギーが満ちたら、すぐにまた舞台に向けて、まっしぐらになるのですが(笑)。

学びの時間が大切

――昨年9月から年末まで舞台を休養した期間に、アメリカに行った。それがよいリハビリになったという。

礼:ラスベガスのショーやNYブロードウェイのミュージカルを観ることもできて、とてもいいインプットができました。ブロードウェイでは、舞台に立つ日本人の演者の方が輝いていて、その姿に刺激をいただきました。

 いいインプットがなければ、アウトプットもできません。次は海外で活躍されている方にとって、宝塚歌劇の存在を刺激に思っていただけるようにがんばりたいと思いましたし、必死に走るだけではなくて、このような新たな学びの時間が大切だということも痛感しました。

――モーツァルト、ロミオ、柳生十兵衛……さまざまな役を縦横無尽に演じ、ショーでは弾けるダンス、パワフルな歌を披露する。男役がいて、娘役がいる。宝塚には宝塚が描く唯一無二の世界観がある。礼にとっての究極の男役像を尋ねた。

礼:黒燕尾のダンスに尽きます。それも、スパンコールなどの装飾のないシンプルな黒燕尾。「1789」「RRR」はもちろん「記憶にございません!」も含めて、さまざまなジャンルの作品に挑戦しているなかで、宝塚歌劇の華やかでキラキラした世界の原点が、男役たちが一糸乱れずに踊る黒燕尾のダンスだと思っています。

――昨年は宝塚に対し社会から大きな批判が起きた。自身は休養期間を経験したことが、足元を見直す機会になり、転換点にもなった。

礼:コロナ禍以降、タカラヅカは激動の波にさらされ、厳しい見方があることも自覚しています。

 ここでは舞台に立つ者たちが文字通り、命を注いで作品を作り上げています。その裏には110年の中で積み上げられた数々の伝統があります。

 時代が動き続ける中で、伝統のあり方は変わっていくものですが、私たちが舞台にかける思いは変わりません。稽古場で流した汗は、幕が開いた瞬間に大きな感動に変わって、お客さまも私たちも笑顔になる。その瞬間をこれからもつないでいきたいと思っています。

(ジャーナリスト・清野由美)

AERA 2024年7月29日号より抜粋

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