3月に開催されたパリ五輪代表選考会の女子100mバタフライで優勝し、池江璃花子(右)とともに派遣標準記録を突破してパリ五輪代表に内定した平井瑞希(撮影・YUTAKA/アフロ)

 大きく力強い文字が躍っていた。それを見た父は「娘が本気なのかどうか、このあと練習や生活をちょっと見てやろうと眺めてみました」(太郎さん)。すると、一つ一つの練習を丁寧に取り組んでいた。

「これはどうやら本気らしいぞ、と。だって、信じてやれるのは親くらいしかいないじゃないですか。そこからはできる限りのサポートをしようと妻と話しました」

 平井の日大藤沢高校進学のタイミングで、家族全員で愛知県から神奈川県に引っ越した。太郎さんは勤務先こそ変えずに済んだが、母親である千鶴さんは長年勤めた会社を退職し新天地で再就職した。家族それぞれの人生において、大きなチャレンジだった。

 女子100mバタフライの世界記録は7月18日現在、米国のグレッチェン・ウォルシュが6月のパリ五輪代表選考会で8年ぶりに塗り替えた55秒18。平井との差は1秒15で、距離にしてウォルシュの身長ほどだという。ウォルシュの身長は188センチと168センチの平井より20センチも大きい。持久力も加味される200mならまだしも、体格とパワーでぶっちぎる印象の100mでの勝負は容易ではない。

 それでも、17歳の勢いに期待したくなる。10カ月前まで58秒台だったタイムを一気に2秒近く縮めた。加えて、この種目では1972年のミュンヘン五輪で青木まゆみが1分03秒34と当時の世界新で金メダルを獲得している。戦後、競泳日本女子の世界記録はバタフライと背泳ぎのみ。日本女子競泳陣の世界記録種目なのだ。パリを、半世紀前の歴史を紡ぎ直す糧にしてほしい。(ジャーナリスト・島沢優子)

AERA 2024年7月29日号

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