『枕草子』や『徒然草』を学生時代に教科書でかじり、古典嫌いになった人でも興味が湧く一冊。古典から透けて見えるのは高尚さでも昔の人の気品の高さでもなく、日本人のエロに対するおおらかさであるというのが本書の趣旨だ。
『大和物語』や『うつほ物語』をひもとけば、世話女房よりも育児を放棄した、貞節が緩い母が理想として描かれている。日本社会は古来、母から娘へ財産が継承される母系社会で、女性は「より良い男」を惹きつけることが重視されたからだ。「エロい女がエラい」のであり、その究極である貴族の性愛サロンを描いた『源氏物語』は愛欲にまみれ、不倫が日常茶飯事の世界になる。
 性愛を重視する日本人像を映し出す一方、エロの弾圧も指摘する。西洋化に突き進んだ明治期や戦時下は古典もエロの規制を免れなかった。現在もエロを取り巻く環境は厳しく、東京五輪を見据えた浄化運動も始まる。古典も対岸の火事でないのだが、「美しい日本」を世界に訴えたいならば、伝統文芸に脈々と伝わるエロのパワーを見直すのも一考では。

週刊朝日 2016年2月12日号