対談で一冊できるなんてラクと思った自分を呪い殺したいハードさだったがそれも良い思い出(写真:本人提供)

 にしても、いつも本を出す時は、自分に書きたい何かがあって、つまりは最初からゴールを見据えての孤独な作業となるんだが、今回はたった1通の手紙から人が集い、ああだこうだと必死に走っているうちに中身が少しずつ固まっていき、その中身を面白がり装丁して下さったデザイナーさん、太字部分をノリノリでマーカーしてくれた大学生さん、その全てを気に入って下さった書店さんと、思わぬ輪が広がってパワーアップしていき、果ては関連グッズまで製作という、全く誰も思いもよらなかった事態まで発生するに至った。結果が吉と出るかは全く不明だが、意思や選択でなく「縁」で扉が次々開かれていくことそのものが面白く、そうか人生にはこんなやり方もあったのかと、今とても爽やかな心持ちである。

 人はその時々の縁で自分にできることを一生懸命やれば良し。それが次の縁につながっていく。きっとそれこそを「吉」と言うんですよね。

AERA 2024年7月22日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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