ポスター枠を実質「販売」したN国の立花孝志党首(前列右)。候補者ではなく、党に「寄付」した人が自由に制作したポスターを貼った
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 小池百合子氏が3選を果たした都知事選。目立ったのは本来の政策論争ではなく、度を越した悪ふざけや選挙の営利利用とみられる動きだ。AERA 2024年7月22日号より。

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 特に混乱が相次いだのが選挙ポスターだ。公認と関連候補合わせて24人を擁立した政治団体「NHKから国民を守る党」(N国)は、党に「寄付」をすれば、寄付者が自由に制作したポスターを貼れるとして枠を事実上販売。枠を得た人が選挙とは無関係のポスターを大量に貼り出すケースが相次いだ。これとは別に、ほぼ全裸に近い女性のポスターを掲示し、警視庁から警告を受けた候補も。政見放送ではシャツを脱ぎだす女性候補やジョーカー姿で机の上に座る男性候補も現れた。

選挙制度の想定外

 選挙プランナーの大濱崎卓真さんは「選挙がおもちゃにされている」として、こう指摘する。

「過去にも奇抜な候補、特殊な主張をする候補はいましたが、一応は選挙での当選を目指すという建前が成り立っていました。ただ、N国のように露骨にその前提を無視する動きが出てきています。これまでの選挙制度が想定していない事態です」

 背景には何があるのか。大濱崎さんは、「情報流通環境の変化」と「政治への視線」という二つの理由を挙げる。

「4月に行われた衆院東京15区補選では、政治団体『つばさの党』による選挙妨害が大きな問題になりました。この例が典型的ですが、選挙で目立つことをして注目を集めれば、動画配信などによって収益化できる構造ができています。さらに、政治不信の高まりで『秩序を守らなくてもいい』という意識が生まれています。政治への最低限の敬意が失われ、政治や選挙をおもちゃにしてもいいと考える人が増えているように感じます」

 こうした動きが続くと様々な影響が懸念される。早稲田大学政治経済学術院の日野愛郎教授は言う。

「今回の選挙について言えば、候補者や政策について知るための『認知負荷』が高まりました。本来、選挙戦は候補者の人となりや主義主張、政策を戦わせ、有権者はそれを吟味して投票先を選びます。しかし、営利目的・売名目的の候補や当選する気のない候補が大量に紛れ込み、それが注目を集めることで本来はもっと光が当たるべき候補者選択のための情報に十分な光が当たらなかった。候補者が多く、ポスターや選挙公報を見比べることすら難しくなりました」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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