〈国境ではなく、理解という名のボーダーを越えたその先にある世界〉
著者はそれを、「奇界」とよぶ。
動物の死骸が並ぶ西アフリカの呪術師の霊感商法、因果応報や性病の恐ろしさを伝えるおぞましい像が並ぶタイの寺院、アメリカの砂漠にあるサイケデリックな神の山、チェルノブイリの廃墟、アルゼンチンのUFO村、サイババ……いわゆる「珍スポット」とはまたテイストの違う、もっとドロリとしたダークな磁場のようなものをもつ、世界の「奇界」を、写真家の著者が切り取ったフォトエッセイ。漫画家・諸星大二郎らと訪れた、パプアニューギニアでの精霊の洞窟とマッドメンの世界の章での、写真と文章がかもし出す「異世界」の緊迫した空気の切り取り方は、圧巻である。
ネットをポチポチすれば、いつでもその場から世界の様々な情報が手に入れられる今でも、スマホやPCでは分からない世界の広さ、ディープさを実感する。そんな、広くて深い地平まで連れていってくれる、奇界専用のどこでもドアのような一冊。
※週刊朝日 2016年2月5日号