誰かを頼りましょう。
「誰か」とは、家族や親せき、自治体や国、制度、「認知症カフェ」などで出会う、同じ思いを共有できる人たちなど、あなた以外のすべてです。
最後まで残る機能は笑うこと
それと、なにより大切なのは、「笑う」こと。
そう。さまざまな能力や機能を失ったあとに、本当の最期、昏睡状態になる直前まで残されている機能が「笑う」ことなんです。
私が誰より笑ってほしいのは、認知症の家族を支えるあなたです。
「笑うなんてとてもとても……」と思うかもしれません。コツは、0か100かではなく、毎日の変化の波に気づく視点を持つことです。
その日によって起こる、小さな波の違い。昨日はわかりやすかったり、今日は伝わりにくかったり。そうしていくうちに、今まで意識していなかった、大切なことが見えてきます。
その人の人生史、本当に大切していること、好きなもの、妙なこだわりや、ちょっとした欠点。そして、あなたや家族をどれだけ愛しているのか……。
それを知ることこそが、認知症介護の中に差す光、すなわち「晴れ」なのだと、私は思っています。
そういえば、前にこんなことがありました。
その日は、認知症で72歳の岡田さんの定期的な認知機能のチェックを行ったのですが、思った以上に症状が進んでいます。
それを察してか、ご主人の顔も、曇り空。
私は励ましの意味も込めて、ご主人に「こんな日もありますよ、でも、優しく支えてあげてくださいね」と言いました。
すると、なんと岡田さんご自身が、
「あなたっ! ちゃんと支えなさいよ!」
と、ご主人に向かっておっしゃったのです。
支えられる本人が、「支えなさいよ!」なんて、おかしな話ですよね。
でもご主人は、だんだんコミュニケーションが難しくなっていく奥さんの口から急に飛び出した言葉に、苦笑いしながらも胸を熱くされている様子でした。
「支えるよ!」と叫び返すご主人に、
「任せたわよ!」と畳みかける岡田さん。
それから私とご主人は、お互いの顔を見合わせて、思わず笑みがあふれました。