マンガ/中川いさみ
この記事の写真をすべて見る

 何もわからなくなるのが認知症。そんな風に沈んでいたら、当の認知症の人の言葉から多くのことを学ぶことに。理解が深まれば、晴れ間が広がる。理学療法士・川畑智氏の著書「ボケ、のち晴れ」(アスコム)から一部を抜粋し、認知症の人との付き合い方を考える。

【写真】長生きをするためには、人とのつながりが肝要と解説する評論家はこちら

* * *

 「認知症になると、なにもわからなくなる」と思っている人が、結構います。じつは、理学療法士になりたての頃の私もそうでした。

 何度も同じことを言うし、部屋からリハビリ室までの道順もわからない。

 トイレに連れていっても、便座に座ったまま動かない。

 ゼンマイが切れたのか、頭の中が停電したのか、それとも頭と体をつなぐギアが壊れてしまったのか……。

 いつもできないわけじゃないから、なおのこと不思議に感じたし、こっちを試そうとわざとそう言っているのではないか? そう演じているのではないか? とさえ勘ぐってしまう自分がいたことを、今では恥ずかしく思います。
 

ここは、ヒザ

 81歳の鈴木さんに、認知機能のテストをしていたときのことです。

 「ここはどこですか?」という私の問いかけに、まったく反応してくれません。

 私は、思わず身を乗り出し、車いすに座る鈴木さんのヒザにトントンと合図を送りながら、何度も「ここは、どこですか!?」「ここです!」と聞き直しました。

 すると鈴木さんは

 「ここは、ヒザ!」

 と答えたのです。

 返す言葉に詰まりました。

 だって、あながち不正解とは言えませんよね。私の手は、はっきり鈴木さんのヒザの上に置かれていたのですから。

 そうか、認知症といっても、なにもかもわからないわけではないのか―

 どんよりと曇っていた私の心に、一筋の光が差し、晴れ間が見えた瞬間です。

 そうして視点を変えてみると、「この人、珍しい見方、面白い視点で見ているな」とか「わかっていないと思っていたけれど、すごく真っ当なことを教えてくれるな」と気づかされる場面が増えていきます。

 どんどん心に「晴れ」が広がっていきます。

次のページ
日向夏の著者の祖父も