だからこそ、大学院選びのミスマッチには気をつけたほうがいいと本髙さんは考えている。

「ぼくの友人が大学院に入ってから『自分が本当に研究したいテーマは、別のところで学べる』と気づいて、途中でほかの大学院に入り直していました。学部からの継続で同じ大学の院に進もうと思う人は多いかもしれませんが、自分が研究したいテーマをきちんと見定めてから研究室を選ぶことが大事だと思います」

理工学分野でファンに貢献できることは何だろう

 アイドルと研究を両立していた本髙さん。修士2年目のときには、日本経営工学会主宰の「Best Presentation Award」秋季大会で表彰されるという栄誉を得た。

「ぼくはそれまで一度も学会で発表したことがなかったんです。仕事があるから無理だな、って。でも友だちが、『本髙はプレゼンが得意そうだから、この大会、向いているんじゃない?』と紹介してくれたんです」

 もし受賞できたら、大学院での研究成果を残せるかもしれない。マネージャーに相談すると、学会の2日間は仕事を休めることがわかった。

「ヨシ!と思いました。友だちに『出場するからには、賞をとってくるわ!』と宣言したんです。でも調べてみると論文提出の締め切りは3週間後。7 MEN 侍のライブなどもあったんですが、死に物狂いで論文を仕上げました」

 研究発表は、「最適なチケット販売方法の提案」についてだった。

「社会シミュレーションという手法を使って、チケット販売におけるエンタメ市場の問題を分析しました。といっても、ぼくの研究だけで、チケットの最適な販売方法が導き出せるほど単純な問題ではありません。チケット転売などの問題を解決するには、ファンの気持ち、つまり心理学分野での研究も必要でしょうし、需要と供給のバランスを経済学の知見も必要かもしれない。法的な検討も大事かもしれません。非常に根深い問題だと思います」

 本髙さんの興味は、チケット問題だけに限らない。誰もが公平にエンタメを楽しめる方法を、さまざまな角度から考えていきたいと語る。

「たとえばドーム会場でのライブは、座る席によって演奏の音と歌声がズレて聞こえることが多いんです。でも今年4月、SixTONES の東京ドーム公演を見学して驚きました。会場の真ん中に円形ステージがあって、スピーカーが中央を向いていた。これは理論上最適なステージ配置で、実際に音のズレがほとんどありませんでした。こんなふうに、理工学分野が役立つことはたくさんあると思います。ぼくも自分たちのグループのライブでアイデアを出していきたいですね」

次のページ
さらに新たな学びの挑戦も