油と塩がブースト(増幅)アイテムだなんていってしまうと、単純にそれ自体の味の強さがカレーに加担しているようなイメージを持ってしまうかもしれません。そういう側面は確かにあります。なぜかといえば、油も塩もそれ自体がうまいですから。たとえば、ごはんに油と塩をふりかけたら、おかずがなくても食べられるほどのおいしさを持ちます。でも、それだけではないんです。
油も塩も、加熱中の鍋の中で、別の仕事をしてくれています。すなわち、役割があるわけです。油には加熱時に鍋の中の温度を上げ、火入れを強化する役割があります。素材そのものの表面に香ばしい香りが生まれ、味をさらに引き立たせるのです。また、香りが逃げないよう、定着させるのも油です。
塩には素材の味わいを引き出したり、素材から水分を抽出したり、ふり入れられた先の食味をはっきりとさせる役割があります。ふかしたじゃがいもをそのまま口に運ぶより、塩をふったほうがじゃがいもらしい味を感じやすくなるのはそのためです。
それぞれの役割をさらに具体的に見ていきましょう。
カレーを作るとき、多くの場合、油は最初に鍋に投入されます。続いてホールスパイスが加わり、「炒める」というプロセスがスタート。このとき、油はどんな役割を果たしているのでしょうか?
よく説明に使われる表現として、「スパイスの香りを油に移します」というものがありました。確かにそういう側面もあります。ただ、1分程度炒めたところで、油に十分な香りが移るわけではありません。さらにカレーが出来上がるまで、少なくとも10分以上は加熱が続くわけですから、その間、スパイスの香りは出続けます。
ホールスパイスを炒めるときの油の役割は、もうひとつあるんです。それは、「スパイスの形を部分的に傷つけて、香りが生まれやすい環境をつくること」です。カルダモンに亀裂が入ったり、クローブがふくらんだり、クミンシードが色づいたりする。それによって香りを多く出す準備が整うのです。