出版、ウェブなど多方面の編集業に携わる著者が「消費」をめぐる社会の変化を考察した書。主張は明快。近年の社会では人々の物欲が減退し、「モノ」に代わってより目に見えづらい価値観が求められる傾向にある。例えばファッション業界では最近、カフェを併設し食品や雑貨を店内で購入できる店舗が増加しているが、これは服という具体的商品から「ライフスタイル」という抽象的価値観に消費の軸が移行している表れだという。市場を中心とした資本主義は「中心」たる先進国が「周辺」たる発展途上国を開拓し、前者が利潤を得る仕組みのもと発展を遂げた。しかしグローバリゼーションによって「国境」が再定義される現在は、そのシステムも限界を迎えつつある。
 今後の社会は、発展に代わって質的な豊かさを求める「定常型社会」に移行するであろうと著者は指摘する。一般に何かを「しない」ことはネガティブな状態と見なされやすい。しかし、本書は「消費しない」状態を単に「購買意欲の減退」で終わらせず、明るい認識へと転換させる視点を与えてくれる。

週刊朝日 2016年1月29日号

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