事業の縮小で降格も地道に成果を上げて驚きの返り咲きへ
同部はまとまりがなく、不平不満が多かった。でも、みんなの意見も聞いて改革案を出す。やがて、社内から知的財産部の機能が認められていく。
すると、驚く辞令が出た。横浜研究所長へと、返り咲きを超えた抜擢だ。知的財産部での地道な仕事を、経営幹部が評価してくれたようだ。着任して所長室を終業後に開放し、自由討議の場とした。酒は飲み放題、乾き物は減った分を総務担当が補充する。参加者は500円を貯金箱に入れ、あとは所長もち。「人が主役」の『源流』からの流れが、勢いと幅を取り戻す。
2012年4月に社長就任。前年に東日本大震災があり、タイの生産拠点が大洪水で被災した。赤字決算になり、社内は暗かった。そんな苦境を、製造現場の面々と気持ちを一つにして乗り越えたいと思い、全国の事業所を巡回する。経営の目標を分かりやすく伝えるため、イラストや写真でつくったパネルを掲げた。キーワードは本質・本音・本気の「3本主義」だ。
最後に懇親会で3本の日本酒を出す。ラベルに「本質」「本音」「本気」とあり、注文品で味が微妙に違う。飲んだ社員の多くが「本質は辛いね、本音はちょっと甘めだ」などと話しながら、『源流』からの流れに浸る。2017年4月に会長になり、つくるのをやめた。でも、事業所訪問は特別顧問へ退いても、機会があれば続けている。対話は無論、「3本主義」だ。(ジャーナリスト・街風隆雄)
※AERA 2024年7月8日号