――今年の春闘では大手上場企業が相次いで賃上げを打ち出しています。比較的余裕のある大企業は賃上げできると思いますが、中小企業は難しいのではないでしょうか。

「労働生産性を上げないと賃上げはできない」というのが常識のようになっていますが、そんなことはありません。原材料費や光熱費などの上昇分を価格に転嫁できれば、賃上げは可能です。実際、ほかの国はできているわけですから。

 日本の中小企業が抱える最大の課題は、コスト上昇分を価格に転嫁できていないことです。もちろん、大企業と取引している場合が多いため、力の関係上、できないのもわかります。ただ、政府や経団連も問題意識は持っていて、中小企業との取引で優越的な地位を乱用している企業名を発表するなど、プレッシャーをかけ始めています。極端な話ではありますが、さらに進んで、消費者が該当企業の不買運動をするとか、そういった流れが出てくると、より良いと考えています。

 消費者と直接やり取りする中小企業に関して言えば、消費者の側が値上げの意図を考えることも重要です。例えば中華料理店がチャーハンを20円値上げしたとします。そのときに、「これはアルバイトの賃金分かもしれない。お店も大変なんだな」と考える。こういった「労働者を支える」という視点を持つことも大事なポイントです。

――アベノミクスは物価が上昇すれば賃金も上がるという触れ込みでした。しかし、賃金はさほど上がりませんでした。

 アベノミクスのときは異次元の金融緩和により、13~14年ごろに円安が急速に進んで物価が上がりました。しかし、肝心の賃金が上がらなかった。ただ、当時は1%ほどの物価上昇で、いまほどの激しいものではありませんでした。これだと労働組合も、高い賃上げを要求する機運が広がらない。でも今回は違います。22年12月には4%のインフレを計測しましたし、それを受けて、賃上げを目指す動きが活発になってきている。国際的にみて 「賃金が安すぎる」という認識を社会全体がかなり強く持つようにもなってきている点も、当時とは全く異なります。

――なぜそのような認識が広がったのでしょうか。

「安いニッポン」という現象に注目が集まったことが大きいと思います。このおかげで日本は賃金も物価も異常に安いということに多くの人が気が付きました。最近、より高い賃金を求めて、海外に「出稼ぎ」に行く若者が増えているという報道がありますよね。なぜそうなったかというと、賃金も物価もずっと変わらない日本と、毎年上がってきた他国の間に、大きな差が開いてしまったからです。なんとなく今までは、「こうやって日本は生きていくんだ」というふうに思っていたけれども、「まずいんじゃないか」と考える人が増えてきたのだと思います。

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