小笠原氏のところに届いた内部告発文書は料金不足で送られていた(写真は封筒に押されていたスタンプ)

 小笠原氏が、自分が受け取った文書が、本田前部長から送られた内部告発だったと知ったのは、6月5日に本田前部長が勾留理由開示手続きのため鹿児島簡裁で意見陳述し、
「私がこのような行動をしたのは、鹿児島県警職員が行った犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことが、どうしても許せなかったからです」
 などと発言した後だった。本田前部長の行為は、正当な内部告発ではないのか。

 小笠原氏はこう話す。

「本田さんからの郵便には84円切手が貼られて送られてきたが、10円不足で私が負担して受領した。封筒には差出人がなかったが、10円を払わなければ永久に内部告発は封印されたかもしれない。本田さんが逮捕され、鹿児島県警は『鹿児島県警のものだから、郵便を返せ』と電話してきました。どの郵便なのか特定もしていません。宛先は私で、しかも不足の10円を払ったのですから所有権が誰にあるのか明らかです。そして鹿児島県警は『取り調べをしたい』というので、『こちらも録音録画をするのでどうぞ』と了承したら断ってきた。本田さんが送った原本の存在を確認せず、捜査を継続するのでしょうか」

「表現の自由は封殺される」

 中願寺氏はこう話す。

「メディアはいろいろな情報を入手する。中には一方的に送られ真偽不明のものもあるが、警察の事件の隠蔽はおかしいと、藤井さんや本田さんのように正義のために内部告発してくれた資料もあるでしょう。メディアにガサをかけ、パソコンなどを押収して調べれば、いくらでも公務員を逮捕できるかもしれない。それは、自らの不祥事の隠蔽であり、他の正義ある警察官への見せしめです。報道機関のガサが簡単に容認されれば、憲法が保障する表現の自由は封殺される。鹿児島県警のガサはメディアへの弾圧だ。許されることではない」

 元東京地検特捜部検事で、コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士に話を聞いた。

「まず、心臓の持病があって測定装置をつけている人に事情聴取し続けるとは、人権無視としか言いようがない。それで仮に供述調書が作成されても、検察は採用しないどころか激怒して事件も立件できないでしょう」

 そして鹿児島県警について、こう語った。

「内部告発が相次ぐというのは、不祥事などを適正に処理せず、県警上層部が隠して、周りから異議があろうが封印してきた結果ではないか。メディアへの強制捜査も言論の自由を抑制、萎縮させる問題だ。身内を逮捕してさらに隠そうとする県警にはコンプライアンスどころか、警察としての正義がない」

(AERA dot.編集部・今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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