本田氏のところに送られた告発文書の1枚目。家宅捜索でこの文書のデータも押収された

「鹿児島県警に殺される」

 身柄が拘束されても投薬や治療が受けられるよう、私は中願寺氏に、診断書や治療経過、服用している薬などがわかる書類を弁護士に託すようにと伝えた。

「依頼している弁護士が福岡なので、身柄をとられると鹿児島の弁護士が必要になる。取り調べでずっと黙っているというのも、それなりに負担がかかるのです。黙秘しているものだから、刑事の声も時折荒くなる」(中願寺氏)

 4月21日、中願寺氏の事情聴取があったが、懸念していた逮捕はなかった。だが、その後も鹿児島県警の調べは続き、中願寺氏の病状はより深刻になった。

 ある日、中願寺氏は電話でこう伝えてきた。

「取り調べの最中、心臓発作で椅子から落ち、床に横たわった。なんとか心臓の発作をおさえるニトログリセリンに手を伸ばして口に含んだ。記憶では、心臓が安定するまで15分ほど、何もない床に寝転がっているしかなかった」

 中願寺氏の記憶では、床に横になった時、鹿児島県警の刑事は「大丈夫か」と口にする程度で、119番通報もせず、毛布なども持ってこず、なんら措置を講じずに中願寺氏を放置していたという。中願寺氏はこう訴えた。

「このまま取り調べられ、逮捕までされたら、心臓が持たず、鹿児島県警に殺されるかもしれない」

 私と小笠原氏は、人権無視も甚だしい取り調べの実情を記者会見で訴えるべきではないかと、中願寺氏を説得した。だが、
「命にかかわる取り調べですが、情報源を守るため、会見はしない。警察にも絶対にしゃべりません。黙秘で戦う」
 それが、中願寺氏の答えだった。

 その後、藤井巡査長はさらなる捜査情報漏えいの容疑で再逮捕された後、5月20日に起訴された。中願寺氏については嫌疑がないと判断したのか、県警の取り調べはなくなり、逮捕は免れた模様だ。

押収したパソコンデータから新たな逮捕者

 だが、鹿児島県警は中願寺氏から押収したパソコンから、新たな「ネタ」を見つけていた。

 小笠原氏のところに3月下旬、「闇をあばいてください。」と始まる、鹿児島県警内部の不正事案を記した差出人不明の文書が送られてきた。小笠原氏はそのデータを中願寺氏に転送し、共有した。それが押収されていた。
 これが端緒となり、県警元警視正の本田尚志・前生活安全部長(60)が5月31日に国家公務員法違反(守秘義務違反)容疑で逮捕されることとなった。

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「警察としての正義がない」