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 Z世代の女性向けエッセイ投稿サイト「かがみよかがみ(https://mirror.asahi.com/)」と「AERA dot.」とのコラボ企画は第2弾。「わたしと『母親』」をテーマに、エッセイを募集しました。多くの投稿をいただき、ありがとうございました。
 投稿作品の中から優秀作を選び、「AERA dot.」で順次紹介していきます。記事の最後には、鎌田倫子編集長の講評も掲載しています。
 ぜひご覧ください!

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実家から東京の自宅に帰ってくると、いの1番にスーツケースを開いて荷解きをする。すすけた、焦げっぽい匂いがする服と下着たちを早く救出しなければならないから。

帰省中に母が洗濯してくれた服は、ヤニで壁が黄ばんでいない私の部屋にきちんと置いておいたし、向こうで荷造りをしているときはくさくなかった。近くにいるうちに鼻が慣れてしまうのだろう。私は母に別れを告げたあと、時間差で母が吸うタバコの香りを嗅ぐことになる。1着1着、顔をうずめて確かめるたびに、その不思議さで笑ってしまった。
 

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子どものころ、母のことを恥ずかしい存在だと思っていた。幼稚園の参観日で、スラッとしたきれいな他の“お母さん”たちと並んだ母は、なんだか1人だけ顔のシワが多くて、口紅の色がおかしくて、着ている服も変で、浮いているように思えた。

私は3人兄弟の末っ子として生まれた。母は、20代で兄2人を産み、その10年後に私を産んだ。1番上の兄と私の干支は同じだ。

今でこそ30代後半で子どもを産むことの普通さは分かる。

しかし、あの当時のあの地方で、20人ほどのクラスの小さな世界しか知らない私にとって「自分の母親が他の母親より年を取っている」ことはとても許しがたいことのように思えた。

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