ジェンスン・ファンCEO
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 時価総額でアップルを抜き2位に躍り出た米半導体大手のエヌビディア。多額の開発費を投じることでも知られる同社だが、なぜ注ぎ込み続けられるのか。AERA 2024年6月17日号より。

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 次世代GPU「ブラックウェル」チップの開発に「100億ドルの研究開発費を注ぎ込んだ」とエヌビディアの共同創業者兼CEOのジェンスン・ファン氏は言い、1年ごとに新GPUを出す予定だ。

 エヌビディアがそこまで多額の研究開発費を惜しげもなく注ぎ込み続けられる理由は、GPUの設計は行うが、製造は台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に委託しており、自社工場を持たなくて済む点にある。

 エヌビディアの24年度のフリーキャッシュフロー、つまり「企業が自由に使える現金」をみると、前年度より610%増えて、約270億ドルに達している。

「このペースなら25年度末には500億~600億ドルかそれ以上になる計算だ」と米CFRAリサーチの半導体専門の証券アナリスト、アンジェロ・ジノ氏。

 ちなみにアップルの24年度のフリーキャッシュフローは1千億ドルを超えている。だが粗利益を75%に維持できるエヌビディアに対し、アップルの粗利益は45%程度だ。アップルが事業に再投資できる割合はそれほど大きくないのだ。

政治的なリスクも

 だが、TSMCに製造を頼っているエヌビディアにも大きなリスクは存在する。「もし中国が台湾に軍事侵攻したら、半導体の供給がストップしてしまう」とジノ氏。それを避けるため、バイデン政権はアリゾナ州に次世代GPUの工場を造るTSMCに4月に66億ドルの資金援助を発表した。米国内で生産を確保すれば、半導体ゼロという最悪の事態は回避できる。

 この1年でエヌビディアの売上高は3.6倍に達し、株価は3倍の1224ドルを突破した。

 アップルやマイクロソフトがエヌビディアのエンジニアを引き抜こうと必死になっているのでは?という質問に、ジノ氏は「たとえライバル企業から誘われても、ここまで自社の株価が上がっている以上、その利益の恩恵を受けられる社員たちが他に簡単に移るとは考えにくいし、現場の社員たちと話すと彼らはかなり同社の待遇に満足しているようだ」と答えた。

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長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

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