それをお祓いするのです
“霊媒師”は続けた。
「あなたの家族には変な霊がとりついている」
「お金や指輪、ネックレスなどのお祓いをすれば、助けることができる」
その時、Aさんの手元には日本円で10万円、台湾元で1万5000元(約7万2千円)あった。手指には金の指輪が2つ。
“霊媒師”は指輪をじっと見つめ、
「それをお祓いするのです」
Aさんは魅入られたように、指輪や現金を差し出した。
“霊媒師”は手のひらサイズより少し大きめの布でできた黒っぽい袋を取り出して現金や指輪を入れた。その袋を左手に持ち、何やらよくわからない言葉をつぶやき、まさにお祓いをするように、右手を左右に振るようなポーズを繰り返した。
「神様に頭を下げるような格好で」
“霊媒師”の指示にしたがい、Aさんは目をつぶり、頭を下げていた。その間、約2分。
「お祓いできました。これであなたの家族も大丈夫。しっかり霊視しています」
“霊媒師”は現金と指輪が入っているはずの黒っぽい袋を手渡した。そして言った。
「それを開けてはいけない。霊視した効果が薄れてしまう。霊視のことは誰にも言ってはいけない」
すっかり信用したAさんは「親の病気がこれでよくなる」と安心した。
現金も指輪も消えた
別れた後も、Aさんは“霊媒師”の言葉にしたがった。台湾から一緒に来ていた友人にもお祓いのことは話さず、黒っぽい袋はかばんの中に入れたままにしていた。
台湾に帰る日が来た。友人と一緒に関西国際空港に行った。機内に預ける荷物をまとめている時、あの黒っぽい袋に気が付いた。
なんとなく不安になり、友人に“霊媒師”のこと、お金や指輪をお祓いしてもらったことを話した。友人は即座に反応した。
「それは変だ」
友人に強く説得され、Aさんは黒っぽい袋を恐る恐る開けた。塩が入ったビニール袋。そして小さな数 珠が2つ。お祓いをしてもらった現金と指輪がない。
「騙されたのでしょう」
友人から言われ、段々と不信感が湧いてきた。