トランポリンに器械体操、水泳、サッカー、ダンスとマルチスポーツで育んだ運動神経も強みのひとつ(写真:松尾/アフロ)
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 AERAの連載「2024パリへの道」では、今夏開催されるパリ五輪・パラリンピックでの活躍が期待される各競技のアスリートが登場。これまでの競技人生や、パリ大会へ向けた思いを語ります。

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 どうしてもパリに行きたい理由がある。

 昨夏のイタリア遠征中、日本からLINE電話がかかってきた。母方の祖母からだった。ビデオ通話の画面には病床の祖父が映っている。親戚も全員集まっていた。事態を察した。涙があふれたが、スマートフォン画面に向かって懸命に言葉を振り絞った。

「じいちゃん、一緒にパリの景色を観よう」

 その瞬間、祖父の目はうっすらとひらき「がんばれ~、がんばれ~」とかすれた声でつぶやいた。画面に祖父の指が映った。自分の顔をなでているのだとわかった。電話を切ってしばらくしてから亡くなったことを知らされた。

 大山岩男さん。享年74。最後の力を振り絞りエールを送ってくれた。訪問診療の医師からは「血中酸素濃度が正常値をずっと下回った状態だったのに。奇跡です」と言われたと聞く。10年前に病から生還したが、再発し闘病していたことは知ってはいた。

「でも、そこまで悪かったとは知りませんでした。すごくショックでした。じいちゃん、オリンピックっていう言葉は私に絶対言わなかったんです。いつも、いつも、スケボー頑張れとしか言わなかった」

 あとで祖母から、祖父はオリンピック頑張れよと言いたかったはずだが、自分のプレッシャーになるから言わなかったのではないかと聞いた。パリ行きを心から望んでいたがあえて伝えなかったのだ。

 その気遣いに胸が熱くなった。実は小学生のころ、クリスマスプレゼントはスケートボードだった。

「最初のほうはサンタさんからだ!ってなっていたけど、大きくなるとサンタさんはいなくて親が買ってくれたんだと思ってました」

 祖父が亡くなった後、サンタは祖父母だったと知った。

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