知恵と工夫で困難な現況も乗り越えられる(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」のイベントではお芝居パートの脚本を書き、自らも占師役で出演してくださった岸本鮎佳さんが主宰する劇団「艶∞ポリス」の公演「見上げたらメンチカツ」を観にいきました。なんと、会場は学芸大学の居酒屋さん! お芝居って、芝居小屋じゃなくてもできるんですね。知らなかった。

 お客さんは演劇を見に来た観客であり、同時に居酒屋さんのお客さんでもあります。飲食をしながら、目の前で繰り広げられるお芝居を楽しむ仕組みです。居酒屋さんの内装をそのままセットに使った内容で、どこからどこまでが板の上なのかわからないのが逆に功を奏し、臨場感たっぷりで楽しめました。

 演劇はチケット代金が高すぎると、様々なSNSで嘆かれています。1枚2万円近くするものもあるそうで、2度3度と観たくても、お財布がそれを許さない。ファンとしてはチケットがもっと安くなってほしいけれど、劇団員の生活が苦しくなるのは本望ではない。今だって、贅沢ができるほど演劇だけで食べている役者さんは少数でしょうし。

 舞台を作る資材費の高騰、チケット代を支払う観客の実質賃金がアップしていないこと、演劇が気軽に楽しめなくなった理由は様々でしょう。

 それらを抜本的に解決することが本質ではありますが、社会の難題を一朝一夕で解消するのは困難。しかし、知恵と工夫で現況を乗り越えることはできる。そう教えてくれたのが岸本さんの舞台でした。

 今回の舞台、チケット代はたったの3700円。飲食代は加算されますが、飲み食べしているのだから当然だ。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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