科学者たちの研究内容や人生を語った講義集だ。ウイルス学者の山内一也らがゲストとして招かれている。ノンフィクション作家の著者は、科学者と自らの仕事の共通点はテーマに対する「思い入れ」だと話す。
生物発光、遺伝子工学など、個々の研究領域は多岐にわたる。専門外であれば内容を噛み砕くのに少し時間がかかる。ただ、それだけで本を閉じるのはもったいない。特にそれを体感するのは、本書でも異色の存在である江坂遊の講義だ。ショートショート作家・星新一の弟子である江坂は「ナノ」「男」など、異なる言葉同士を結合し新たな意味を生み出す「要素分解共鳴結合」なる技を伝授する。他の職業にもインスピレーションを与える発想だ。長年システムエンジニアとの兼業作家であった江坂は人生のうち最初の25年は学ぶ時代、次の25年はそれを発揮する時代に分けているという。他にも適切な学問ジャンルがない、専攻を変えて現在のテーマに行き着くなど紆余曲折を伴うゲストたちの研究人生は、どんな状況下であれ自らの道を進む示唆に富んでいる。
※週刊朝日 2015年12月25日号