AERA 2024年6月3日号より

「ターゲットを尾行するのは最も効果的な襲撃の場所や時間帯、攻撃手段を見つけ出すためだ」

 とはいえ、脅威情報が事前につかめていたのに、なぜ襲撃を防げなかったのか。遺族はやり場のない怒りや悲しみを募らせている。

「このまま私たちは忘れられてしまうのでしょうか」 

 マンドザイの妻ナフィサは、事件から約2年後にインタビューに応じて不安を語った。イスラム勢力タリバンが復権したアフガニスタンでは、女性が高等教育を受けたり、働いたりすることは、一部を除いて認められていない。それは稼ぎ手である夫が殉職しても同じで、残された妻は働きに出ることができない。さらにタリバン暫定政権下では、殉職者やその遺族に対する公的補償は機能していない。ナフィサは中村医師のNGOなどからもらったお金を取り崩し、婚約指輪を質に入れて子ども6人を食べさせてきたが「この先、子どもたちの教育費を誰が払ってくれるというのでしょうか」と絶望している。

 ナフィサは22年9月と11月、「孤立する未亡人(私よりも子どもたちが苦しんでいる)」と題するメールをNGOや日本大使館に送った。マンドザイの遺影を持つナフィサの横で、子どもたちがメッセージ付きの紙を掲げている写真を添付した。

 長女ファティマは「日本で学びたい」と訴え、ドクター・ナカムラにあこがれる長男ワヘドゥラは「医者になりたい」と願っている。自傷行為が目立つ次男アブドゥラは「父は日本政府と働いた」と補償を求め、父の敵をとるために警察官になると誓う。次女ザハラは「明るい未来がほしい」と望み、三女サナは「誰が父を殺したか分からない」と説明を求めている。

 メールを送ってから1年半あまり。ナフィサは「いつか私たちの声が日本に届くはず」と信じ、メールの返事を待っているが、本稿執筆時点で、まだ返信はない。

「置き去りにされた」の声、日本政府幹部が記事を牽制

 日本が世界各地の紛争地で果たしてきた役割は大きい。アフガニスタンは主要援助国のひとつであり、医療や福祉、教育などの民生分野で地道な支援を続けてきた。武器や兵隊を大量に送り込む米国や北大西洋条約機構(NATO)とは異なり、日本の貢献は現地政府からも市民からも好感されてきた。

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