AERA 2024年6月3日号より

 それを支えてきたのは、日本大使館や国際協力機構(JICA)の現地スタッフだ。彼らは時に危険と背中合わせで、情報収集や折衝にあたってきた。ところが、2021年8月にガニ政権が崩壊し、タリバンが首都に攻め込んだ時、現地スタッフやその家族の退避の遅れが問題になった。日本人の大使館員12人が航空機でアラブ首長国連邦(UAE)に退避する一方、現地スタッフやその家族の航空チケットは手配できなかったのだ。

 大使館やJICAには「命を救ってほしい」と救済を求める声が相次いだが、日本の対応は後手に回った。政権崩壊から8日後、日本政府は自衛隊機を現地に飛ばしたが、折悪く空港近くで爆発が起きるなどして一時中断。結局、国外へ退避させることができたのは、米国から依頼されたガニ政権関係者ら14人と日本人1人だけ。現地スタッフの一人は、電話取材に対し「日本のために一生懸命尽くしてきたが、置き去りにされたようだ」と声を落とした。

 驚くのは、この問題を報じた私の記事に対し「あおるのか」と牽制する日本政府の幹部がいたことだ。現地スタッフを助けようと政府内で奔走する職員がいる中で、そうした幹部の発言は人権意識を欠いているというほかない。

 首をかしげたくなるような対応は、他の紛争地でも起きている。国軍が21年のクーデターで実権を握り、大勢の市民が殺害されてきたミャンマー。日本政府は新規の途上国援助(ODA)を見合わせる一方、巨額の既存ODAを継続してきた。人権侵害が明らかな状況で、ODAが国軍側に利用される事態を許していると人権団体などから指摘されている。

 貧しい国や地域で人道の旗を振ってきた者が、いざという時に知らぬ顔をしたり、不都合な事実に目を伏せたりしたのでは、信用は続かない。外国勢力にほんろうされてきた歴史を持つ紛争地の人たちは、日本の政府や団体の振る舞いも注視している。(文中一部敬称略)(朝日新聞記者・乗京真知)

AERA 2024年6月3日号より抜粋

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