──大学ではラグビー部に所属し、学生新聞のカメラマンとしても活躍し「楽しかった」と振り返る。しかし、一番大きな経験は「マイノリティーになって学ぶことだった」と語る。

1学年にたった2人

 ハーバード大学は1学年に約1600人の学生がいますが、そのうち日本人は何人いると思われますか? わずか0.1%です。私の時は日本から来た日本人は2人だけ。しかも私は全く海外経験がなく、日本語でしか授業を受けたことがありません。圧倒的なマイノリティーでした。

 授業は英語ですが、ディスカッションはスピードが速すぎて9割ぐらい理解できません。そこで教授に相談に行くと、「まず手を挙げなさい、そしたら当ててあげる」と言われました。教授の質問はわかりやすい英語でなんとか理解でき、議論にも徐々に慣れていきました。

 普段は寮生活です。大学の食堂がたまり場で、友だちと深夜0時に集合して午前3時までよく一緒に宿題をやっていました。高校までは何でも自分でやってきたタイプでしたが、自分の弱さを受け入れ、人に頼ってもいいことを学んだ経験は、すごく大きな学びでした。

──「人に頼る」──。これは今の市政運営に生きているという。

 市の一番大きな仕事は、市民の可能性を拓くことだと考えています。市民のみなさん一人一人が色々なバックグラウンドを持って生活している中で、我々が大切にすべきはその人の可能性を最大限に広げるための環境づくりです。でも、自分が経験したことのない他者の人生を想像するのは難しい。それが周りに助けてもらった経験をしたことで、どうすれば助けを求めやすいか、どんな支えが必要か、自分なりに想像できることが今に生きていると思います。

──そして今の大学生たちに「学べ」と語りかける。

 5月って、「大学生の時しか遊べない」などと言われたりと、真面目に学ぶのはよくないのかと思い始める頃だと思うんです。遊ぶのは悪いことじゃないし、その人の自由。だけど、何のために受験して大学に進学したのかも考えてほしい。勉強したいこと、興味がある分野があれば、学んだ方がいい。大人になって実感しますが、自分の好きなことを心ゆくまで学び続けられるのは、大学時代だけです。

(構成/編集部、野村昌二)

AERA 2024年6月3日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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