ドラマ「リズム」の撮影風景。セリフのタイミングや相手役との呼吸など、その場での指示に素早く対応する。「エルピス」の演出をした大根仁は言う。「岡部さんは異常に早いんですよ。正解に辿り着くのが」(撮影/門間新弥)
ドラマ「リズム」の撮影風景。セリフのタイミングや相手役との呼吸など、その場での指示に素早く対応する。「エルピス」の演出をした大根仁は言う。「岡部さんは異常に早いんですよ。正解に辿り着くのが」(撮影/門間新弥)

「岡部さんレベルのスキルを持つ俳優にとって、村井はいわゆる『絶対に美味しい役』。岡部さんはバイプレーヤーとして活躍していたけれど、もっとメジャーな場所に行くべき人だとずっと思っていた。僕自身もくすぶっていた時間が長いんで、個人的な思いもあったんです。もう一歩先の岡部さんを、村井役だったら見せることができる。『これはすごいことになると思う』と話しました」

 実はもうひとり、村井役の候補がいた。岡部の盟友ともいえる俳優仲間の岩谷健司(53)だ。

「一応、体を空けて待っていたんですけど、事務所から『もう一人候補がいる』って聞かされて、なんだよ、腹立つな!って。蓋(ふた)をあけてみたら『なんだ岡部かよ。じゃ、しょうがねえや』って(笑)」

 岡部でよかった、と岩谷は清々(すがすが)しい。

「あれは運命的なものだったもんね」

 実際、すごいことになった。ツイッターでは回を追うたび「村井株」が爆上がり。取材のオファーも増え、今年7月には2本のドラマにレギュラー出演。秋からのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」への出演も決まっている。岡部はいう。

「母親にはずっと『いつ、やめんねんや』って言われ続けてましたし、地元にもなかなか帰れなかったけど、やっと友達が『お前、すごいな』って俳優として認知してくれるようになった」

 そのやわらかい関西弁と物腰で、対人の垣根を決して高くしない。ドラマ収録の合間も常に若い共演者たちに話しかけ、場をなごませていた。やさしさと気配りのひとだと感じる。

 和歌山から上京して四半世紀。50歳でブレークした俳優の半生とはどんなものなのか。

 岡部は1972年、和歌山県に生まれた。3歳下の弟がいる。家は大阪との県境の街にあり、自転車でいける距離に小さな飲み屋街やデパートがあった。母は2児の母ながら20代半ばと若く、父はあまり家にいなかった。

 子どものころなりたかったのはジャッキー・チェン。テレビで映画「酔拳」を観て、コミカルで笑えるキャラクターに魅了された。自らジャッキーたかしを名乗り、仲間を巻き込んで「ジャッキー軍団」を結成、田んぼにわらを積んでバック転の練習をした。ほうきとちりとりを手にニセ広東語を操り、学校でアクション劇を披露したこともある。ニセ広東語は、いまも持ちネタのひとつだ。関西弁でいうところの「いちびった(調子にのってはしゃぐ)」ことをやるタイプ。クラスの盛り上げ役で、小5のときには担任から「ひょうきん大賞」をもらった。

 中学時代には『ビー・バップ・ハイスクール』の影響で髪を染め、短ランに憧れた。が、厳しかった母は断固として許さず、岡部は友達の家で着替えて学校に行った。

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