「こみねベーカリー」社長の小嶺忠さん

「僕は親父の後を継いだ2代目だけど、自分の子どもに継いでほしいとは思わないよね」

 そう苦笑いする小嶺さん。このまま値上げラッシュが続けば、「菓子パン1つを500円で売る未来」もちらつく。しかし、「地域密着の店としてはなるべく値上げはしたくない」。

 求める人がいる限り、パン耳の販売も続けるつもりだが、かつてのパン屋で見かけたような「砂糖をまぶした耳の揚げパン」を商品化するのは難しいという。

「油の値段や人件費が上がっているので、割に合わなくて。耳は少しでも安く提供したいので、調理はご自身でお願いします」

パン耳を見なくなった理由は…

 他店の“パン耳事情”はどうなのか?

 記者は2日間、道行く先のパン屋を10軒ほど取材した。すると、なんとすべての店で耳を販売、もしくは無料で配っていた。

 一見店頭で見当たらなくても、話を聞くと大半は「既に売り切れてしまった」とのこと。なかには「なるべくパン粉として店で再利用したいので、希望する方には“裏サービス”としてお渡ししています」という店もあった。

 最近パン耳を見なくなったという記者の印象は、パン屋が売らなくなったからというより、人気のためすぐになくなってしまうせいなのかもしれない。

 東急目黒線・不動前駅にある「ブーランジェリー アロー」(品川区) の店主・青地章子さん(40代)は、こんなことをつぶやいていた。

「日本もかつてはバブルだなんだと裕福で、パンの耳なんて見向きもされない時期もありましたが、今はみなさん喜んで持っていかれる。時代の流れだなと思います」

 今回の取材で、どうしても訪れたいパン屋があった。記者が幼いころに母親と通った、東急池上線・石川台駅近くの商店街にある「フォンデュベーカリー」(大田区)だ。約20年ぶりに足を運ぶと、記憶どおり、今でも袋に詰められたパンの耳が売られていた。

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